北米で爆増するシソが食べられていない理由

植物

シソは北米に持ち込まれたのち急速に野生化し、現在では在来植物を圧迫する侵略的外来種として扱われています。本来は食べられる植物であるにもかかわらず、北米では食材としてほとんど利用されていません。ではなぜ「食べて減らす」という発想が広がらないのでしょうか。本記事はその理由を歴史・文化・生態・安全性の観点から解説しています。


シソの基本情報

シソはシソ科シソ属の植物で、爽やかな香りをもつ一年草です。シソ科にはシソのほかにも、バジル、ミント、ローズマリー、ラベンダー、セージなど、香り豊かなハーブが数多く含まれています。エゴマも同じシソ属に含まれる植物で、学術的にはシソと同じ種の系統に分類されます。ただし、エゴマは主に種子を収穫して油を搾る用途で栽培されることが多く、葉を香味野菜として利用するシソとは用途の面で区別されるのが一般的です。

シソは大きく分けて青ジソと赤ジソの2種類があり、赤ジソは祖先型に近いとされ、青ジソは赤ジソの変種であると言われています。赤ジソは梅干しや漬物の色づけによく使われ、出回るのは6月中旬から7月中旬です。一方、青ジソは薬味として一年中流通しています。青ジソの葉は「大葉」と呼ばれ、これが流通名として広く使われています。

シソの原産地はヒマラヤからミャンマー、中国中南部にかけての山岳地帯と考えられており、香りが爽やかで食欲を増進させることから、古くから人々に利用されてきました。

シソは漢字で「紫蘇」と書きますが、これは中国の昔話が由来とされています。その昔、食中毒で死の淵をさまよった少年にシソの葉を煎じた紫色の薬を飲ませたところ、無事に蘇ったことから「紫蘇」と名付けられたといわれています。この名前の由来からも、シソが古来より薬草として、そして食材として深く人々の暮らしに結びついていたことがわかります。

日本へは縄文時代に渡来したと考えられており、当時の土器からシソ類の実が発見されていることから、約2500年前にはすでに利用されていたことがわかっています。現在、シソは日本・韓国・中国などの東アジア地域を中心に、ベトナムやタイなどの東南アジアでも食用として利用されています。

シソが北米に持ち込まれた経緯とその広がり

Famartin, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

こうしたアジアでの長い利用の歴史とは対照的に、シソが西洋へ伝わったのは比較的近代になってからです。まず、1855年頃にイギリスの園芸愛好家の間で赤ジソが広まりました。しかしその人気は長続きせず、あまりにも多用されたために新鮮味を失い、1862年までには園芸家の間で「使いすぎて飽きられた植物」と見なされるようになりました。

その後、アメリカには1860年代頃に導入されたと考えられています。アメリカへの持ち込みも同様に園芸市場を通じた意図的なものでしたが、シソは非常に強い繁殖力を持っており、庭から逃げ出してすぐに野生化しました。

この植物は一株が1,000から1,500粒もの種子を生産し、種子は鳥や水流によって広範囲に散布されます。シソは密生した群落を形成する能力が高く、在来植物を資源競争によって排除してしまいます。また、道路脇・古い牧草地・水路沿い・森林のふちなど、撹乱を受けた土地に真っ先に侵入し、条件が整えば急速に繁茂します。そのため、現在では少なくとも31州で帰化が確認されており、アメリカ中部大西洋岸地域を中心に在来植物を押しのける侵略的外来種として問題視されています。さらに、カナダでも一部地域で野生化が確認されており、北米全体で分布を広げつつあります。


文化的な違い

しかし、これほど大量に増えているにもかかわらず、「なら食べて減らせばいいのでは」という発想は北米ではほとんど生まれていません。これは、シソがもともと園芸目的で持ち込まれたため、食べ物として認識される機会がほとんどなかったからです。

日本でのシソの本格的な栽培がいつ頃始まったのかは明確ではありませんが、平安時代に作られた律令の施行細則をまとめた書物「延喜式」には、「伊勢国 蘇子一升」「尾張国 紫蘇子各五升」「讃岐国 紫蘇子五升」などとシソの種子が貢納品として記録されており、この時代にはすでに各地でシソの栽培が行われていたと推測できます。

江戸時代になると、シソは食卓にさらに広まっていきます。1697年に宮崎安貞が書いた「農業全書」には、「梅漬けや塩味噌につけたものは様々な料理に使え、生魚に使えば毒を消し、薬としても使える」といった内容が記されています。この記述から、シソが単なる薬草としてだけでなく、梅干しや味噌漬けといった保存食への利用、さらには生魚の解毒作用を持つ食材として、食文化において重要な役割を担っていたことがわかります。

シソの香りの主成分であるペリルアルデヒドには、殺菌・防腐作用や整腸作用、抗炎症作用があることがわかっています。刺身のつまとしてシソを使うのは彩りのためだけでなく、食あたりを避けるための暮らしの知恵だったのです。冷蔵技術のなかった時代に生魚を食べる文化を持つ日本において、シソはまさに欠かせない存在でした。

青ジソは緑色の葉と強い香りが特徴です。年間を通じて1束100円前後の手軽な価格で購入できるため、シソはまさに和ハーブの代表格として現代の食卓にも根づいています。刺身の添え物をはじめ、そうめんや冷ややっこの薬味、天ぷら、餃子の具、さらには和風パスタやドレッシングに至るまで幅広い料理に活用され、日本の食卓のさまざまな場面で親しまれています。

一方、赤ジソは赤紫色の葉を持ち、梅干しや漬け物の着色に用いられ、出回るのは6月中旬から7月中旬です。赤色の梅干しは、梅と一緒にアク抜きした赤ジソを漬け込むことで鮮やかに発色します。ナスやキュウリを主体とした赤い漬物「しば漬け」も赤ジソで発色しています。また、乾燥させて粉末にした赤ジソはふりかけとして利用され、市販品では「ゆかり」の名で親しまれています。

シソは中国においても古くから重要な植物で、西漢時代(紀元前202年から220年頃)までさかのぼる長い歴史を持ち、2000年以上にわたって栽培され、薬用・食用の両面で親しまれてきました。薬用としては、葉や種子が風邪の初期症状、咳、腹部の張り、胃腸の不調などの改善に用いられてきたことが文献に記されています。食用としても古くから広く利用され、葉を野菜と一緒に食べたり、梅や塩で漬けて副菜にしたり、スープに加えたりしてきました。

ベトナム料理でもシソは生のハーブとしてスープや米麺料理に添えられたり、サラダや春巻きと一緒に食べられる代表的な香草です。紫色や緑色の葉をそのまま生で使うことで、料理に香りと爽やかさを加え、消化を助ける役割も担っています。

シソは東アジアや東南アジアを中心に、食材として広く利用されてきましたが、こうした食文化はアメリカには存在しません。多くのアメリカ人がシソを目にするのは、日本食レストランで刺身や寿司を注文したときくらいです。英語圏において「shiso」という日本語名が一般的に使われるようになったのは1990年代以降、寿司の人気が高まったことがきっかけでした。ただ、シソは一般的に「刺身の下に敷かれた、誰も食べない飾りの葉」として記憶されがちです。つまり、皿の上に乗ってはいるものの、パセリと同様に「食べるものではない添え物」として扱われてきた歴史があります。そのため、シソを口にしたことがないアメリカ人は非常に多く、「あれは食べられるのか」という疑問すら浮かばないまま過ごしている人がほとんどです。食材の本来の役割が見えにくい状況では、積極的に料理に取り入れようという動機も生まれにくいでしょう。


入手可能性

Alexdet, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

また、シソを入手するにはアジア系食料品店や、日本・韓国・中国・ベトナム系の人口が多い地域のファーマーズマーケットを探すか、自分で種から育てる必要があります。存在を知っていても手に入らない、そもそも手に取る機会がないという状況が、食べる習慣の芽を摘んでいます。

たとえシソに興味を持ったとしても、その風味の独自性がハードルになります。バジルやミントのように「これはピザに合う」「これはデザートに使う」という明確な用途のイメージが定着していないため、仮に購入しても「どう使えばいいかわからない」という壁に当たってしまいます。シソは「日本食レストランで出てくるもの」というイメージに固定されてしまい、家庭料理に取り込むという発想が生まれにくくなっているのです。


害草としての扱い

さらにシソが敬遠される理由のひとつとして、食用植物としてではなく農業上の害草として広く認知されていることが挙げられます。アメリカでは「ペリラミント」「ビーフステーキプラント」「パープルペリラ」「チャイニーズバジル」「ワイルドバジル」など多数の名称で呼ばれており、家畜にとって有毒な雑草として扱われています。

ウシがシソを食べるとペリラケトンという成分の影響で肺がうまく働かなくなり、息がしづらくなります。さらに症状が進むと泡を吐くこともあり、重い場合は呼吸困難に陥ります。ウシやヤギなどの家畜はこの成分に特に弱く、短時間で深刻な状態になることがあり、数キログラム食べるだけで、1から2日以内に死に至ることもあります。

この毒性は生の植物に限りません。夏の終わり、種子形成期に刈り取って乾燥させた場合でも毒性が残り、干し草に混じって家畜に与えると中毒を引き起こします。

特に危険なのは、毒性が最も高くなる夏の終わりの開花・結実期が、良質な牧草の量と質が落ちる時期と重なっていることです。さらにその時期、暑さや害虫のストレスから逃れようとした家畜が日陰に集まると、そこはまさにシソが密生している場所であることが多く、食べてしまうリスクが一気に高まります。テネシー州ではシソはあらゆる有毒植物の中でウシの死亡原因として最も多く報告されています。

ただし、これまでに人間がペリラケトンで肺の病気になったという報告はありません。この違いは人間と家畜の肺における「モノオキシゲナーゼ系(薬物代謝酵素系)」の違いによるものと考えられています。ウシなどが特に脆弱なのは、肺の特定の代謝酵素がペリラケトンを活性化しやすい構造を持っているためと推測されています。

このように、シソはウシ・ヤギ・ウマにとって有毒であり、呼吸困難や死をもたらすこともあるため、土地管理者はこの植物を積極的に除去するよう推奨されています。シソは「食べ物」というよりも「取り除くべき植物」という印象が先行してしまっているのです。


変わりつつある現状

City Foodsters, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

ただし、この状況は少しずつ変化しています。シソのアニスとバジルを合わせたような風味は、近年西洋でも徐々に人気を獲得しており、バーテンダーやパティシエがカクテルやデザートに取り入れるようになっています。シソの葉は香味野菜としては少量しか食べないものの、栄養価は比較的高いことで知られています。とくにβカロテンを多く含み、体内でビタミンAに変換されて皮膚や粘膜の健康維持に関与します。また、ビタミンCやビタミンB群、カルシウム、鉄、カリウムなどのミネラルも含まれています。シソが持つ豊かな風味と健康効果への関心が高まる中、アメリカの食文化においてもシソが本格的なハーブとして再評価される日はそう遠くないかもしれません。


安全性の問題

Alex Abair, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

しかし、これはあくまでも栽培されたものであり、野生のものではありません。たとえ人々が関心を持ち「食べてみよう」と考えたとしても、次に問題になるのは採取環境です。これはシソに限らず、野生植物全般に共通する問題です。

野外に自生する植物は、どのような土壌で育ったのかを外見から判断することができません。道路沿いであれば、過去の排気ガス由来の鉛やカドミウムなどの重金属が残留している可能性があります。また、造成地や空き地では、建設残土に含まれる化学物質の影響を受けていることもあります。さらに、野生化したシソは多くの地域で侵略的雑草や害草とみなされているため、管理の一環として除草剤が散布されている可能性もあります。

このように、野生個体は生育履歴が不明であり、重金属・化学物質・除草剤など複数の要因が重なり得ます。市販野菜のように管理された供給経路を持たない以上、安全性を見た目だけで判断することはできません。増えているからといって気軽に食べて利用できる状況ではなく、「食べて減らす」という方法は現実的とは言いにくいのです。


日本でも同じことが起きている

こういった問題は北米だけのものではなく、日本でも同様の課題があります。たとえば、北米原産のセイタカアワダチソウは観賞用として導入されましたが、その後各地で野生化し、河川敷や空き地で群生して在来植物の生育を圧迫する存在となりました。

セイタカアワダチソウは北米では食用としても利用されることがあります。若葉を茹でて食べたり、花をハーブティーにしたりと、地域によっては民間薬として活用されてきました。しかし日本に持ち込まれた個体は、食材として広く利用される文化や習慣が十分に定着しておらず、群生する一方で活用しきれていません。ある地域では有用だった植物が、別の地域では管理対象になるという現象は世界各地で見られ、日本もその例外ではないのです。


参考:

https://www.tanabe-chuoseika.co.jp/post-3038.html https://www.toyosu-market.or.jp/2024/05/24/8348/ https://www.yasainavi.com/zukan/shiso.htm

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38043271/ https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10394348/

https://u.osu.edu/beef/2023/07/19/start-looking-now-for-perilla-mint/

https://www.invasive.org/alien/pubs/midatlantic/pefr.htm

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1049964424001087

https://www.lhprism.org/beefsteak-plant-perilla-frutescens/ https://www.primalsurvivor.net/perilla-mint-identification-foraging/ https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1049964424001087

https://greg.app/shiso-weed/ https://grobrix.com/shiso-perilla-why-and-how-you-should-eat-it/

https://www.tnipc.org/invasive-plants/plant-details/?id=150 https://fooddb.mext.go.jp/result/result_top.pl?USER_ID=13343

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