外来種ミノカサゴを駆逐するためにサメを調教したら最悪の結果に!!

生物

侵略的外来種であるミノカサゴは米国フロリダ州の海やカリブ海で急速に生息域を広げており、深刻な被害をもたらしています。これに対し、スキューバダイバーたちはサメを調教し、ミノカサゴの駆除を試みましたが、その結果、彼らの行為は裏目に出てしまいました。

大西洋岸を侵略する外来種ミノカサゴ

ミノカサゴは中部太平洋からインド洋のサンゴ礁海域に棲む魚で、英語では一般にライオンフィッシュと呼ばれています。彼らは赤、白、クリーム色や黒色の縞模様を持ち、目を引く警告色、よく目立つムナビレ、有毒のヒレのトゲが特徴です。ミノカサゴは多くの人々から最も美しい海水魚のひとつとしてみなされています。

しかし現在、何百匹ものミノカサゴが大西洋岸の海域を占領し海洋生態系を破壊しており、経済的損失を引き起こしています。これはペットとして飼われていたミノカサゴを誰かが放流したことが原因であると考えられています。

40年間でこの侵略的外来種は夏の間に北はニューヨーク、南はブラジルまで広がりこの範囲のあらゆる場所に定着して大混乱を引き起こしました。2022年3月以降、ミノカサゴが生息する範囲は今や約700キロに及んでいます。

1990年代半ばにはすでに、ミノカサゴの侵略は猛威を振るっていました。そのため、スキューバダイバーたちは当初、ミノカサゴの悪影響が見られていたこれらの場所で個体数を制御するためのキャンペーンを主導しようとしました。彼らは誰が最も多くのミノカサゴを捕まえられるかを競う、スピアフィッシングの競技会を開催したのです。スピアフィッシングとは素潜りやスキューバダイビングで銛や水中銃を用いて魚類を捕らえる水中スポーツのことをいいます。スピアフィッシングはミノカサゴの数を減らすための最良の方法のひとつと見なされていました。また、その当時、ミノカサゴはシーフードとしても人気が高まっており、グリル、揚げ物、またはセビーチェとして生で食べられることもありました。

しかし、こうした努力にもかかわらず、これらの対策は十分ではありませんでした。その主な理由のひとつとして、ミノカサゴが侵略に成功しただけでなく、驚異的な速さで繁殖する能力があったことが挙げられます。ミノカサゴは1回の産卵で1万~4万個の卵を産み、さらにメスは夏場、約4日ごとに産卵するのです。そのため、単純に計算すると、平均的なメスは毎年200万個以上の卵を産んでいることになります。これらの卵は受精後も、捕食者に対する抑止力として機能する不快な化学物質を含んでいると考えられています。つまり、彼らの卵がほかの魚に食べられることはないのです。そのため、人間がミノカサゴを見かけたらすぐに銛で突くだけでは十分ではないことがわかります。

スキューバダイバーたちもすぐに、ミノカサゴの拡散を阻止できるだけの数を捕殺するほど水中で長く息が続かないことに気づきました。そのため、ダイバーたちは自分たちよりも水中でずっと長い時間を過ごせる何かを見つける必要がありました。

ミノカサゴ対策としてのサメ

こうして選ばれたのがサメです。当時から、サンゴ礁やマングローブなど広い生息域において頂点捕食者であることの多いサメは、さまざまな生態系で増加しているミノカサゴに対する理想的な解決策であると考えられていました。この生息域に棲むサメにとってミノカサゴは未知の魚ですが、もし食べることができる魚として認識したならば、おそらくサメを天敵として利用し、急速に増加するミノカサゴの数を制御できるかもしれません。実際、文献でもサメがミノカサゴを捕食する可能性があることが示唆されていました。

Albert kokCC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

報告によると、当初、自然と水族館の両方でミノカサゴを試しにサメに与えてみたところ。少しためらいを示したものの、最終的にはいくつかの種がミノカサゴに勇気を出して食いつき、そのうちの2種は特に好んで食べているようでした。ペレスメジロザメはかつてカリブ海のサンゴ礁に一般的に生息していた捕食者でスキューバダイバーの出す泡を恐れないほどの大きさと大胆さを持っています。そして、ミノカサゴと生息域が大きく重なるコモリザメもまた、同じくらい興味を示しました。

こうして、大西洋西部のさまざまな国で多くのスキューバダイバーはサメがミノカサゴが獲物であることを学習し、自発的に狩りを始めることを期待して銛で刺したミノカサゴを食べるように訓練し始めたのです。

ダイバーらはミノカサゴを銛で突き刺し、サメが自身の周囲を回るのを待ってから銛の先をサメに差し出し。最終的に無力化したミノカサゴを食べさせます。これらの2種のサメはやがてダイバーがスピアフィッシングに出かけるときによく現れ、銛からミノカサゴを食べるようになりました。

なぜサメにミノカサゴのトゲが効かないのか?

サメは一般に、ミノカサゴの毒のトゲの影響を受けにくいようです。ただしこれは血液中に何らかの抗毒素が含まれているからではなく、物理的な食べかたによるものと考えられています。

Pascal Deynat/OdontobaseCC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

サメの皮膚は強靭です。彼らの皮膚は何千もの小さな鎧のような楯鱗(じゅんりん)でできており
口の中にもこれを持っています。これらの楯鱗は非常に頑丈で、科学者はミノカサゴの棘がほとんど貫通できないことを発見しました。ある実験ではこのトゲが貫通するにははるかに大きな力が必要なことがわかっています。

さらに、ミノカサゴの背にあるトゲを見ると、すべてがほぼ後ろ向きになっているのがわかります。つまり、頭から丸呑みすれば、トゲがサメの口に突き刺さる可能性は低くなるのです。

このように、正しい方法と正しい力で食べれば基本的にサメに害が及ぶことはなく実際にほとんどの場合、ミノカサゴを頭から飲み込んだ後も苦しむ兆候を見せず、時間が経つと定期的に何度も戻ってきました。

サメの調教が裏目に出る

サメの調教を始めてからすぐに、ダイバーたちはサメの個体数の密度が高くなり、その逆にミノカサゴの数が減少しているように感じ始めています。おそらくこれは、サメがミノカサゴを捕食することを覚えたためだと考えられます。このように、すべては順調かのように思われていたのですが数年後に問題が発生し始めました。

ダイバーはスピアフィッシングに出かけるたびにサメを見るようになりそして、もう少し時間が経つと、サメはミノカサゴが付いていない銛や、さらにはスキューバダイバー自身をも追いかけ始めたのです。

サメは驚くほど順応性のある魚のため、エサがタダで手に入るのならば、無駄に時間と体力を費やして獲物を探すようなことはしません。

そして、このような行動をするようになったのは、もはや前述した2種のサメだけではなくなりました
数種類のサメがこれに加わりカマストガリザメ、クロトガリザメ、さらにはオオメジロザメでさえ、ミノカサゴをダイバーと関連付けるようになったのです。

Joi Ito from Cambridge, MA, USACC BY 2.0, via Wikimedia Commons

こうして、サメはより攻撃的になり、ミノカサゴがいないにもかかわらずダイバーの銛を噛み始めました。そしてさらに事態はエスカレートし、ダイバーたちをも噛むようになったのです。西大西洋とカリブ海ではミノカサゴに依存したサメによって人が負傷する事件が数件発生しています。

さらに、攻撃的になったのはサメだけではありません。オニカマスやウツボもダイバーを襲い始めたのです。

このように、生態系や経済に悪影響を及ぼしていたこの外来種問題は今や人間の命に関わる問題へと発展しています。これは、2001年までに合衆国魚類野生生物局がダイバーによる海洋生物へのエサやりを禁止することを満場一致で決議するほどの事態となっています。

そのため現在、一部の国ではミノカサゴの駆除作業は特別に訓練され、許可を与えられた人員のみに割り当てられています。そのようなケースではチームで作業することが推奨され、ひとりはミノカサゴを突く役割を担い、もうひとりは攻撃的なサメやウツボを撃退する役割を担っています。このように、現在では状況が手に負えなくなっていることがよくわかります。

一般的に野生の捕食動物に繰り返しエサを与えることは非常に危険を伴う行為です。多くの場合、今回と同じように動物の行動が悪化する可能性があります。

減少するサメ

ダイバーがサメを調教したことで一部のサメが自然にミノカサゴを食べ始めた可能性はかなり高いと言えますが、彼らは個体数を減らすほど十分な速度でミノカサゴを消費できなかった可能性があります。

ミノカサゴの数を減らすことができなかった原因のひとつとして、この地域のサメの個体数が全体的に減少していることが考えられます。1990年代半ば以降、ペレスメジロザメとコモリザメの数は60から73%減少しており、これは、30年でほぼ3分の2がいなくなったことになります。最新の研究によると、サメは現在、世界のサンゴ礁の約20%で機能的に絶滅していると考えられています。このように、現在ではミノカサゴの有効な管理手段として使用できるほど十分なサメの個体数は残っていないのです。

現在、ミノカサゴの問題に取り組んでいる海洋生物学者は、地元の利害関係者が参加する大規模なスピアフィッシングの大会が最善の策であると考えています。ただし、この大会にはいくつかの推奨事項と規制が導入されています。例えば、捕えたミノカサゴはサメが捕食できないように容器に入れる、イベント中にサメが発見された場合、ダイバーは別の場所に移動するなどです。

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