ライオンが食物連鎖の頂点に位置する恐ろしい捕食者であることは誰もがご存じだと思います。しかし、この百獣の王ライオンと戦う犬種がいます。
この記事ではライオン狩りの犬種「ローデシアン・リッジバック」について説明しています。
百獣の王ライオン
ライオンのオスの体重は250kgを超えることもあり、これはネコ科ではトラに次いで2番目に大きな種です。彼らは獲物を捕まえるための強力な前肢と顎を持つうえ短距離では時速約80kmで走ることができます。
ライオンは社会的な動物であり、群れで狩りをし協力して大きな獲物を捕まえることが可能です。また、知能も高く、獲物を追い込むための計画を立てる能力も持ち合わせています。
このように、ライオンの強さは、単にフィジカルな力だけでなく、その協力関係や知恵、戦略にも依存しています。これが彼らを自然界での頂点捕食者にしている要因です。
ローデシアン・リッジバックの歴史
特にライオンが生息する地域では家畜が襲われてしまうことがよくあります。これは生計を家畜に頼っている小規模農家にとって壊滅的な被害となります。このような人間と野生動物の対立は昔から続いており、農家にとって家畜の損失は収入と食糧の損失に繋がるため死活問題です。
このため、現ジンバブエ共和国であるローデシアで家畜をライオンから守る犬種としてローデシアン・リッジバックが飼育されてきました。この犬はその偉業からアフリカン・ライオン・ハウンドという称号を得ています。もしくは「王殺し犬」とも呼ばれています。
17世紀半ばにオランダ人が南アフリカと貿易を始めた頃、ケープ半島に住んでいたコイコイ人はヨーロッパ人から全く恐れ知らずで獰猛だと評判の狩猟犬を飼っていました。この犬はやせ型でしたが、筋肉質でもともと耳は直立していたものの、ヨーロッパの犬との交配により、垂れ耳になったといわれています。しかし、最も特徴的なのは、背中に沿って逆方向に生える長い毛でした。そして、オランダ人が南アフリカに最初に定住してから53年以内にはすでにヨーロッパ人はこの地元の犬を飼育していました。
また、1800年代初頭までにヨーロッパの入植者は、グレイハウンド、マスティフ、グレートデーン、ブラッドハウンドなどの狩猟犬を含む、主にヨーロッパの犬種もアフリカのこの地域に輸入していました。そして、これらの犬種はコイコイ人の犬を含むアフリカ原産の犬と交配されたのです。その目的は力強く俊敏で、強い狩猟本能を持ち、アフリカの焼け付くような暑さと乾燥した環境に耐える能力を備えた犬を作り出すことでした。その結果、これらの犬が現代のローデシアン・リッジバックの主な先祖となりました。
19世紀後半になると、チャールズヘルプという名の宣教師が、筋肉質、忠実で飼い主を守る気質、高い運動能力、優れた狩猟能力など、特定の性質を持つ犬種を作り出すために、これらの犬を選択的に交配し始めました。こうして作り出された犬は、危険に直面しても勇敢さと粘り強さを持つその狩猟能力により、ハンターの間で人気となり、ライオン狩りの犬種としての評判を得ました。
ローデシアン・リッジバックの特徴
ローデシアン・リッジバックは体高が61~69cm、体重が32~40kgになる筋肉質な大型犬です。色はライトウィートンからレッドウィートンで、短くて光沢のある毛皮を持ちます。ウィートンとは小麦のようなベージュ色のことをいいます。そして、名前の由来にもなった先祖譲りの反対方向に生えた背中の毛が特徴です。彼らの幅が広い頭蓋骨と、わずかに先細りになっている鼻口部は強力な咬合力を発揮します。また、真っすぐな背中、力強い脚を持つため、優れた持久力と敏捷性が備わっています。
アフリカン・ライオン・ハウンドと呼ばれる恐ろしい別名は、彼らを気性が荒く、制御するのが難しい犬種と感じさせるかもしれません。しかし、実際にはローデシアン・リッジバックはその忠誠心の高さ、知性、愛情ぶかい性質で知られています。この犬種はもともと狩猟用に飼育されていたため、激しく防衛的になることもありますが、家族とみなす人すべてに対しては非常に優しく、愛情にあふれています。また、彼らは見知らぬ人や動物に対しては警戒心が強くなるため、優れた番犬になります。
ローデシアン・リッジバックの飼育と訓練
ローデシアン・リッジバックは体力のある犬種のため、十分な運動と刺激が必要です。彼らは生まれながらのアスリートであり、草原を走ったり、山を駆け上ったりなどの活動に優れています。そのため、リードでつなぐか、しっかりと柵で囲った庭で飼うことが重要です。
また、ローデシアンリッジバックは頑固で独立心が強いため、特に社会化トレーニングを必要とします。そして、この犬種は新しい命令の習得が遅いため、訓練の一貫性と忍耐も重要です。したがって、農家は通常、若いうちから訓練を開始し、さまざまな方法を使用して彼らの本能と能力の両方を開発する必要がありました。
ローデシアン・リッジバックのトレーニングの中心は主に、追跡と狩りを教えることです。農家はまず子犬を平原に連れ出し、嗅覚などのさまざまな感覚にさらして追跡能力を開発するのを助長しました。こうして犬が成長するにつれて、特定の種類の獲物を追跡したり、他の犬と群れで行動したりするなど、より複雑なタスクに徐々に慣らしていきます。このとき、見慣れない動物を警戒し、潜在的な脅威から自分の縄張りを守ることを教えることは非常に重要でした。そのため、農家は縄張り訓練と呼ばれる方法を使用することが多く、犬を徐々に広い土地にさらし、彼らの縄張りにマーキングさせました。そして、農家は犬を制御するために良い行動に対して報酬を与え、望ましくない行動に対しては穏やかに矯正させたのです。
ライオン狩りの方法
まず、犬は通常、鋭い嗅覚を使ってライオンを追跡します。そして、ライオンを見つけると、犬の群れはさまざまな角度から近づき、吠えたて、スピードと敏捷性を使ってライオンのバランスを崩します。犬がライオンを殺すことは通常ありませんが、直接攻撃するのではなく、素早く動き回ってライオンを困惑させ、ハンターが仕留めるまで、十分な時間引きつけました。この時、強力な顎と筋肉質の体を使ってハンターからライオンを寄せ付けず、襲わせないようにもします。
現在のローデシアン・リッジバック
ただし、現代では、絶滅危惧種の狩猟が禁止されているため、ローデシアン・リッジバックは全盛期ほどライオン狩りに使われていません。そのため、今日ではローデシアン・リッジバックは主にコンパニオンアニマルとして、また、小動物の狩猟と追跡のために使用されています。
20世紀初頭になると、この犬種はヨーロッパや北米に持ち込まれ、人気を博しました。1955年には正当な犬種として公式に認められ、その忠誠心や勇敢さが高く評価されています。また、日本でも希少ですが、飼育がおこなわれています。
飼育の注意点
ライオンの殺し屋として広く知られているこの犬が、実際の家庭では非常に優れたペットになる可能性があることに驚かれることでしょう。
ただし、ローデシアンリッジバックは誰にでも向いているわけではないことに注意してください。この犬種は頑固な面があるため、適切な訓練と社会化に時間と労力を費やすことをいとわない、経験豊富で献身的な飼い主が必要です。さらに、ローデシアン・リッジバックの保護本能は、時には危険な状況を引き起こす可能性があり、新しい人や動物に会わせる際には特別な注意と配慮が必要になります。
そのため、他の犬と同様ではありますが、しっかりとリサーチを行い、ローデシアン・リッジバックがあなたとって適しているかどうかを慎重に検討することが重要です。
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