パンダアリの生態:見た目は可愛いが危険な昆虫

生物

ジャイアントパンダは人間の間でも人気ですが、それとよく似た姿をした昆虫がいることをご存知でしょうか?その昆虫はパンダアリと呼ばれ、パンダのような可愛い見た目をしていますが、実は非常に危険な生物です。本記事はこの危険生物パンダアリについて解説していきたいと思います。

パンダアリとは何か?

Chris LukhaupCC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

パンダアリは白黒のモフモフな姿から英語でも「panda ant(パンダアント)」と呼ばれています。このように、ジャイアントパンダのような姿をしていますが、実はパンダでもアリでもなく、アリバチ科に属するハチの仲間です。

アリバチはハチ目(膜翅目)アリバチ科に属する昆虫の総称で、全世界で約4230種が知られています。日本にも生息しており、17種が確認されています。アリバチの体色が赤褐色など色鮮やかになり、また全身にビロードのような長毛を持ち、これが英名の「velvet ant(ベルベットアント)」の語源になっています。

アリバチとアリの違い

この種は性的二形が非常に大きく、オスは通常ほかのハチと同様に羽を持ちますが、一方メスは基本的に羽を持たずアリのような形態で日常生活をしています。ただし、腹部にはハチと同様に針を持ちます。このようにオスとメスの形が大きく異なることから、アリバチは雌雄の対応を付けることが難しく、分類が困難となっています。

一方、アリはハチ目アリ上科アリ科に属する昆虫の総称で、ハチと違い腹柄節という器官を持っているのが特徴です。腹柄節は、腹部前方の付け根が細くくびれたようになったものです。昆虫でもアリだけにある器官で、これはアリの巣に掘られた狭い穴の中での生活に適応する役割を果たしています。

生息地と環境

HagasfagasCC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

パンダアリは1938年にチリで発見されましたが、それ以降、この種の研究はあまりされていませんでした。彼らはチリのほか、アルゼンチンの一部、米国南西部の硬葉樹林に生息しています。硬葉樹林とは、常緑広葉樹林の1種で、乾燥の環境に耐えることができる森林のことです。この場所では年間雨量はある程度確保されますが、乾期に雨が少なく、冬期はさほど低温にはなりません。このように生育期に水条件が良くないため、葉は小さくて固く、乾燥に耐える形をとります。硬葉の名はこれに由来します。

身体的特徴と生活習慣

Pato Novoa from Valparaíso, ChileCC BY 2.0, via Wikimedia Commons

パンダアリは、この乾燥した気候で水分の損失を防ぐため、昆虫の中でも最も硬い外骨格を持っている種の一つです。彼らは単独で生息し、一般的なアリやハチのように巣を作ったり群れることはなく、そのため働き蜂も女王も存在しません。

パンダアリはほかのアリバチと同様、明確な性的二形を持っており、通常の大きさは約1.8cmでオスはメスよりも大きくなり、オスだけが細くて透明な羽を持っています。メスのパンダアリは昼間に活動する一方、オスは夜に活動します。そしてオスは主に蜜を吸いますが、メスはアリ、ケムシ、サナギや幼虫を捕食することがあります。

警戒色と危険性

この種の最も目を引く特徴は、そのパンダのような色合いで、目を除く頭部は白色で、体には黒と白の斑点が現れます。ただ、パンダのような可愛い見た目だからと言って、パンダアリを素手で触らないでください。この色は警戒色で有毒な針を持っていることを捕食者に警告しているのです。

この針はメスだけにあり、体格や行動をアリに似せていますが、強い毒のある針で外敵から身を守っています。そのため、パンダアリは時に人間や大型の草食動物を刺すこともあります。実際に刺されると激しい痛みを伴うため、パンダアリは「牛殺し」という通称で呼ばれています。さらに、針は返しがなく非常に滑らかであるため、何度も刺すことができます。死亡例はこれまでに知られていませんが、パンダアリに刺されると、生命を脅かすアレルギー反応を引き起こすことがあるので注意が必要です。

刺された場合の対処法

万が一刺された場合、氷を使って腫れを抑えるようにすると良いと言われています。また、痛みとともにかゆみを伴うため、ロコイド軟膏などのクリームを塗ると良いとされています。

強力なアゴと防御機能

Pavel Kirillov from St.Petersburg, RussiaCC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

この針に加え、パンダアリは強力なアゴを持っています。これはたった6回の噛み付きで少なくとも1キロの重さの動物を殺すことができると考えられており、タランチュラを専門に狩るオオベッコウバチを倒すことが出来ると言われています。

さらにパンダアリの硬い外骨格は防御にも役立ちます。例えば、パンダアリを潰すには、通常のハチと比べて約5倍の力が必要になります。しかも硬くてツルツルしているため、かみ砕くのは至難の業です。また、ヒキガエルには飲み込まれるものの、腹の中で20分ほども生き延びることができ、最後にはパンダアリを吐き出してしまうのです。そして、このような硬い鎧に守られているにもかかわらず、敏捷性に優れ、攻撃的です。

防御のための音と超音波

それに加え、パンダアリはほかのアリバチと同様に、捕食者に脅かされると音を発します。これは、体の硬い部分をこすり合わせることにより出される、かん高い耳障りな摩擦音で、ストリデュレーションと呼ばれ、雄雌ともに発します。

パンダアリはほかのアリバチと違い、強い超音波を発することがわかっています。パンダアリだけがなぜこのような超音波を発するのかはまだよくわかっていませんが、防御的な警告や仲間の合図として機能する可能性が示唆されています。専門家によると、今後の研究で爬虫類や鳥類に対する防御効果があることが分かってくるだろうと言われています。

繁殖行動と生態

ほかのアリバチと同様に、パンダアリのオスはメスを持ち上げ、空中で交尾します。そのため、最も大きくてメスを抱えて飛ぶことができる力の強いオスのみがメスに選ばれ、繁殖することができるのです。交尾後、オスはメスのパンダアリを安全に地面に落とします。そしてメスはミツバチやスズメバチの巣に侵入し、それらの幼虫またはサナギに産卵管を使って卵を産み付けます。

侵入するパンダアリは、ほかの強力なハチにも負けない強力な外骨格を持っているため、噛みつかれても大丈夫です。さらに強力な針はほかのハチに立ち向かうことを可能にします。こうして孵化したパンダアリの幼虫は、宿主の幼虫を食べて最終的に殺してしまいます。メスのパンダアリは生涯を通じて最大2000個の卵を産むことができます。

天敵

このように様々な防御方法を持つため、天敵がほぼいないと思われ、種を維持するためにかなりの量の卵を産卵するパンダアリですが、アリクイには食べられてしまいます。野生のアリクイは一日に数千から数万匹ものアリを食べることが知られていますが、アリだけでなくハチなどの巣も壊して食べます。パンダアリはむしろその鮮やかな色のためにアリクイには簡単に見つけられてしまうのです。

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