ナイルワニはクロコダイル科クロコダイル属に分類されるワニで、サハラ砂漠と南端部を除いたアフリカ大陸、マダガスカル西部に分布しています。ナイルワニは体長が6m近くまで成長し、シマウマやオグロヌーなどの大型哺乳類を捕食することで知られています。更にこのワニは動物だけでなく人間を襲うこともあり、年間最大200人がナイルワニに襲われて命を落としていると考えられています。
そんな危険なワニがアメリカ、フロリダ州の野生で確認されました。このままナイルワニはアメリカに定着してしまうのでしょうか?そして、フロリダの在来のワニは彼らより大型で凶暴なナイルワニとの競争に勝つことはできるのでしょうか?
この記事はフロリダ州を侵略するナイルワニについて説明しています。
ナイルワニの発見例

1996年または1997年にフロリダ、ヘンドリー郡のセミノール保護区のビリー・スワンプ・サファリで飼育されていたフーディーニという名のオスのナイルワニが脱走しました。
そして驚くべきことに、フーディーニは野生の環境で自力で生き延びていたのです。しかも、逃げ出した当時、体長は1.2~1.5mほどでしたが、4年後の2000年に発見されたときには3mまで成長していました。
セミノール保護区は囲まれていたため、一般市民に差し迫った危険はありませんでしたが、この事件はフロリダでナイルワニが生息可能であることを示す最初の証拠となったのです。
次にナイルワニが観察されたのは2009年でした。その年の4月14日、マイアミの民家のポーチで孵化したばかりの子ワニが発見されたのです。
この子ワニは野生動物の保護施設であるエバーグレーズ前哨基地のボブ・フリーア氏が捕獲し、ルイジアナ州ハモンドにあるクリーバーツ・タートル・アンド・アリゲーター・ファームに送られました。
その後の2011年10月27日に、2009年に捕獲された場所から約400m離れたレッドランド・フルーツ&スパイス・パークで次のナイルワニが捕獲されました。
パークのマネージャー、クリス・ローランド氏はこのワニを当初、小型のアメリカワニだと考えていました。

アメリカワニはナイルワニと同じクロコダイル属で、中央アメリカから南アメリカの北部に分布し、フロリダ州南部にも生息しています。
アメリカワニは人を襲うと思われがちですが、性質は臆病で、基本的に人を見ると逃げてしまいます。彼らは主に魚をエサとし、人間を襲うことはほとんどありません。
また、中南米に生息するオスは最大6mにまで成長しますが、北米に生息するオスが4mを超えることはまれです。
さらに汽水域や海岸を好むため人と出会うことが少なく、個体数も激減しており、1,550~2,000匹しか残っていません。
これに対し、ローランド氏によると、発見された個体はかなり気性が荒く、攻撃的だったといいます。実際、ナイルワニはアメリカワニよりも気性が荒くなり、それに加えて身体能力が高く、より高くジャンプし、速く走ります。
そして、淡水を好むため、人間や家畜と接触する可能性が高くなります。
捕らえられた個体はワニ専門家、ジョー・ワジルフスキー氏がしばらく飼育していましたが、結局他の人に譲ることになりました。
この事件からわずか1年足らずの2012年初頭、ホームステッドの河川で4匹目のナイルワニが見つかりました。体長約90cmのこのナイルワニは、実際にはその年の3月13日に捕獲されています。
しかし、法律により、捕獲された場所に戻さなければなりませんでした。
このことはばかげているように聞こえるかもしれませんが、ナイルワニは絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律によって守られているのです。この法律によると、本来の生息域以外の地域で発見された場合でも種を取り扱い、飼育するには適切な許可証の必要があります。
それがその年の8月に、フロリダ州の野生生物当局は捜査員にこのナイルワニを射殺するよう異例の命令を下したのです。こうして追跡の結果、2年後の2014年3月9日に、最初に捕獲された場所から約16km離れたエバーグレーズ国立公園でついに捕獲されました。
このワニは最初に捕獲されたときのほぼ2倍の約160cmにまで成長していました。また、調査の結果、胃の中にオオクチバスがいることが明らかになっています。
こうして、ナイルワニがフロリダで長期間生き延びることが可能なことが再び証明されたのです。
ナイルワニはこのままアメリカに定着してしまうのか?

これはフロリダで確認された最後のナイルワニの捕獲となりましたが、この地域にはもっと多くのナイルワニがいるという主張が後を絶ちませんでした。
例えば、 少なくとも6mのナイルワニが1匹、ハリケーンの影響で研究施設から逃げ出し、この地域に生息しているという主張があります。これに加えて、ナイルワニが南フロリダの牧場の牛を食べているとの噂が流れました。
このように、今日でも人々はナイルワニがフロリダの沼地に潜んでいると信じ続けています。
実際、ナイルワニがフロリダで生き残ることができることは、これまでの発見からも明らかです。
それだけでなく、ナイルワニはかなりの距離を移動できると考えられています。4匹目のワニが2014年に捕獲された場所から2012年に再捕獲された場所までの直線距離は約16kmでしたが、実際には約46.67kmの曲がりくねった川に沿って移動したと考えられています。
また、マイアミデイド郡で飼育されていたナイルワニが、記録的な寒さが長く続いたときに、多くの在来種のワニや外来種のニシキヘビが死んだ中で、ヒーターなしで一年中屋外で飼育されていたことも注目されています。
体長が1m未満の時のナイルワニは、本来の生息域では生涯において脆弱な時期であり、ナイルオオトカゲやヘビなどに狙われて命を落としやすくなります。そのため、2年間も野生で生き延びていたという事実は、ナイルワニがフロリダで本当に生き残り、繁栄する可能性を示唆しています。
ナイルワニの個体群がフロリダで確立された場合、これらのワニはその地域の多くの野生生物と出会い、在来のアメリカワニやアメリカアリゲーターと競合する可能性があります。
また、ナイルワニとアメリカワニが交雑し、遺伝子汚染を引き起こすという問題も考えられています。
さらに、人命の安全と経済的影響のリスクについても考えなくてはいけません。ナイルワニは本来の生息域で人を襲うことがよく知られており、牧場の牛を捕食することもあります。したがって、ナイルワニがアメリカに定着した場合、ここでも同じことをすると想定できます。
ただし、現時点では、フロリダにナイルワニの定着した個体群があること、彼らがアメリカワニと交配していること、人や牛を襲ったこと、もしくは6m近くのワニが目撃されていることが真実であるという証拠はまったくありません。
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