「赤い悪魔」と呼ばれる巨大イカがいることをご存知でしょうか?このイカはアメリカオオアカイカといい、非常に大きく、ダイバーなどを襲うこともあるといいます。この記事ではアメリカオオアカイカの大きさや生態などについて解説しています。
アメリカオオアカとは

アメリカオオアカイカは開眼目アカイカ科アメリカオオアカイカ属に属する大型のイカです。この種は英語ではジャンボ・スクイド (jumbo squid)という名で最もよく知られていますが、フンボルト・スクイド(Humboldt squid)も呼ばれています。フンボルトという名前は南アメリカの南西海岸沖にあるフンボルト海流を指しており、これはこの種が最初に発見されたのがこの場所だったからです。
アメリカオオアカはアカイカ科のほかの種と同様に、環境などに合わせて体色を変化することができ、捕獲された時も皮膚を急速に点滅させるため、メキシコ・バハカリフォルニアの漁師の間では「赤い悪魔」というニックネームで呼ばれています。
アメリカオオアカの大きさ

彼らの外套膜の長さは1.5mに達し、触手を加えると人間ほどの大きさになります。これはアカイカ科の中でも最大で、体重は50kgにもなる個体がいます。また、メスはオスよりも大きくなります。アメリカオオアカイカと同じアカイカ科に属し、日本でも漁獲されるアカイカがありますが、大きさはメスが60cm、オスが45cm程度で、アメリカオオアカイカがいかに大きいかがわかります。
アメリカオオアカイカの生息域
アメリカオオアカは東太平洋に生息し、ティエラ・デルフエゴからカリフォルニアまでの水深200~700mで最もよく見られます。近年はさらに北上し、オレゴン州、ワシントン州、ブリティッシュコロンビア州、アラスカ州の太平洋岸北西部の海域でも見られます。
アメリカオオアカイカの食性
食性は肉の食性食で、主に小魚、甲殻類、頭足類、カイアシ類を捕食します。
2本の触腕には100~200個の吸盤があり、それぞれにカミソリのような鋭い歯が並んでいます。この長い触腕は非常に速く引っ込めることができ、獲物を掴んだ後、大きくて鋭いくちばしに向かって引きずり込みます。そして、くちばしと歯舌で物の肉を切り裂きます。このエサを食べるスピードは非常に速く、釣り針にかかった魚を食べ、漁師が釣り上げる前にえさを剥ぎ取ってしまうこともあります。
アメリカオオアカイカの生態

彼らはほかの多くのイカと同様、外套膜に吸い込んだ水を漏斗から勢いよく噴き出し、その反動で水中を進み、最高では時速24kmで泳ぐことができます。
科学者がこのイカに電子タグを付けたところ、夕暮れから夜明けにかけてエサを求めて深海から水面付近に移動する日周鉛直移動と呼ばれる行為を繰り返していることが分かりました。
アメリカオオアカイカは最大1200匹もの群れで移動することがあり、2007年から2011年の間に行われた研究では、群れで協力して狩りをしている可能性があることがわかりました。
一方、非常に共食いが多いことでも知られており、ケガをしたイカや脆弱なイカを容易に攻撃することが確認されています。ある個体の胃の1/4にはアメリカオオアカイカの死骸が含まれていまして、またチリ沖で捕獲された2000匹以上のイカの胃の内容物を調査したところ、同種が最も重要な食糧源である可能性が高いことが分かりました。この習性は彼らの急速な成長を助けていると考えられています。
寿命は非常に短く、約一年ですが、より大きな個体は最大2年生き残る可能性があります。
なぜ体色を変化させるのか?
彼らが体色を激しく点滅させるのは仲間に注意を惹きつける為だと考えられています。ですが、これには何らかのメッセージが込められている可能性があるものの、その意味はまだ解読できていません。科学者はおそらくオスがメスを誘うためのメッセージ、もしくは敵を威嚇するサインかもしれないと考えています。
また、急速に退職を点滅させる以外にも、体の上下に伝わるゆっくりした波長の変色もする時があります。これは水中に差し込む太陽光を模倣したカモフラージュをしていると考えられています。
アメリカオオアカイカの危険性について
アメリカオオアカがスキューバダイバーを襲ったという事例は数多くあり、彼らは人間に対して攻撃的であると言われています。ただ、人間を襲って補食するといったことはありません。
彼らの攻撃性についてはいくつかの意見の相違があります。ある研究によると、攻撃的なのはエサを食べている間だけで、その他にもそれほど攻撃性が高くないという意見もあります。
慣れなれないものに興味を示し、捕食中や危険を感じた時以外は好奇心旺盛で知的な行動をとると考えられています。
ある科学者は光を反射したダイビングの道具や点滅するライトを、彼らに対する挑発として捉えた時に攻撃を仕掛けてくると推測しています。深海に設置していたカメラを攻撃し、操作不能にしてしまった個体もあります。また、潜水艇の光に遭遇すると群れとなってその光を追いかけたり、光に引き寄せられたりすることもあります。
アメリカオオアカイカの漁獲

アメリカオオアカイカは商業において世界で最も重要なイカであり、主にチリ、ペルー、メキシコで水揚げされています。2009年の全国漁業データによると、メキシコではイカの総漁獲量の95%がアメリカオオアカです。
漁獲されたアメリカオオアカイカはヨーロッパ、ロシア、中国、日本、東南アジア、北米及び南米に輸出されています。日本ではあまり知られていませんが、実は世界で最も人気のあるイカであり、2019年現在、漁獲されるイカの1/3がこのイカです。
また、アメリカオオアカイカはほかの魚介類と比較して南アメリカ太平洋では安価であり、2010年代初頭にはペルーで1キロ、約0.3ドルで販売されています。
ただ、彼らは深海に生息し、海水で浮力を保つため身が塩化アンモニウムで満たされており、新鮮な時は不快な塩味、酸味、苦みがします。そのため、口当たりを良くするために獲れたてのアメリカオオアカイカはまず機械で身を柔らかくし、乳酸とクエン酸を1%混合した氷水に3時間浸し、次に洗浄し、その後、6%の塩水を入れた別の容器に3時間浸すことで商業用として加工されています。
また、ご家庭で不快な味を中和する方法もあるそうです。
アメリカオオアカイカの食べ方と味

こうして加工されたアメリカオオアカイカはチリではチュペやパイラマリーナと呼ばれる海鮮シチューとして食べられます。また、ペルーではセビチェと呼ばれる魚介類のマリネで食べられます。そして、アメリカではステーキにして食べられます。日本でも天ぷらや炒め物などで美味しくいただけます。
酸味調整したアメリカオオアカイカは甘みがあり、身が厚いので食べ応えがあります。
冷凍のアメリカオオアカイカがネットでも手に入るので、味に興味を持たれた方は購入してみてはいかがでしょうか。
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