2025年6月24日から25日にかけて、札幌市の北海道大学構内で、強い毒性を持つことで知られる「ジャイアント・ホグウィード(バイカルハナウド)」とみられる植物が10株以上確認されました。これを受けて、北大は当該区域への立ち入りを即日禁止し、現在は専門家による植物の同定と駆除作業が進められています。
では、ジャイアント・ホグウィードとはどのような植物なのでしょうか?本記事はジャイアント・ホグウィードの特徴や毒性について詳しく解説しています。
ジャイアント・ホグウィードとは

学名:Heracleum mantegazzianum
セリ科ハナウド属の多年草で、ユーラシア大陸・西コーカサス地方が原産です。和名をバイカルハナウドといいます。
ジャイアント・ホグウィードは、通常高さ2〜5メートルまで成長しますが、理想的な環境下では最大5.5メートルにも達することがあります。葉には深い切れ込みがあり、特に成熟した株では幅1〜1.5メートル、ときには幅2.6メートル・長さ3メートルにもなる巨大な葉を形成します。
茎は太くしっかりしていて明るい緑色をしており、特に葉の基部には暗赤紫色の斑点と粗い白い毛が見られます。中は空洞で、直径は3〜8センチメートル、時に10センチメートルに達し、高さ4メートル以上に伸びることもあります。
花は複散形花序と呼ばれる傘状の集合花で、直径は最大1メートルに達します。花の色は白または黄緑がかった白で、放射状または左右対称の形をしています。
ジャイアント・ホグウィードの光毒性と安全対策

ジャイアント・ホグウィードの樹液には光毒性があり、フラノクマリンという化学物質が含まれています。樹液が皮膚に付着したまま太陽光か紫外線を浴びると、植物性光皮膚炎という深刻な皮膚炎を引き起こします。光毒性反応は樹液に触れてから約15分で始まることがあり、症状は30分から2時間でピークに達しますが、数日間続く場合もあります。
この植物を扱う際は、保護眼鏡や防護服の着用が必須です。もし樹液が皮膚に付着した場合は、すぐに石鹸と冷水で洗い流し、最低48時間は直射日光に当てないように注意する必要があります。
なお、経口摂取による中毒例は報告されておらず、少量の摂取は有害とは考えられていませんが、極めて危険な状態を引き起こす可能性があるため、摂取は避けるべきです。

しかし、一部の放牧動物にとっては害がないようで、スコットランドではヒツジを使ったジャイアント・ホグウィードの防除試験が行われています。米国農務省森林局によれば、豚や牛も明らかな害なく摂取できるとされています。
ライフサイクル

ジャイアントホグウィードのライフサイクルは4つの段階から成ります。
1. 発芽・成長(開花前期)
- 種子から発芽し、数年間はロゼット状の葉を地面近くに広げながら成長。
- 地上部は冬に枯れるが、根で越冬し春に再び伸びる。
2. 開花と種子の生産(顕花期)
- 通常3~5年で開花(条件により最大12年かかることも)。
- 夏(6~7月)に大型の茎と花をつけ、1万〜5万個の種子を形成(平均2万個)。
3. 枯死と種子の拡散(晩夏〜冬)
- 開花・結実後、植物は一生を終えて枯死。
- 枯れた茎が残り、種子は風・水・動物・人などによって散布される。
4. 種子の休眠と発芽
- 落ちた種子の多くは一時的に休眠状態になり、秋冬の寒さと湿気で発芽準備が整う。
- 春には90%ほどが発芽し、新たな個体へと成長。
- 他家受粉が基本だが、自家受粉でも繁殖可能。
ヨーロッパと北米への導入と拡散の歴史

ジャイアント・ホグウィードは、その目を引く大きさのため観賞用植物や庭園で人気の珍しい植物としてヨーロッパや北米に持ち込まれました。以下に、歴史的な経緯をまとめます。
ヨーロッパにおける移住
ジャイアント・ホグウィードは1895年に初めて科学文献に記載されましたが、その時点ですでに12か国以上のヨーロッパ諸国で観賞用として輸入されていました。イギリスでは1817年にロンドンのキュー植物園の種子リストに掲載され、1828年にはケンブリッジシャー州シェルフォードで初めて野生化が確認されています。
その後、ジャイアント・ホグウィードは20世紀半ばまでヨーロッパ全土に拡がり続けました。危険性が知られるようになったにもかかわらず、その後の50年間も庭師や養蜂家、農家によって使用され続け、2002年になってようやく英国王立園芸協会によって推奨栽培植物のリストから最終的に除外されました。
北米への導入
20世紀にはジャイアント・ホグウィードは、樹木園などで観賞用としてアメリカ合衆国とカナダに持ち込まれました。北米で最初に植えられた記録は1917年、ニューヨーク州ロチェスター市の庭園です。
1950年までにはオンタリオ州南部に出現し、短期間でオンタリオ州に定着しました。1980年にはノバスコシア州、1990年にはケベック州で初めて確認されています。なお、2005年頃までカナダの苗木園で販売されていたこともあります。
また、北米西海岸ではオレゴン州、ワシントン州、そしてカナダ南西部にジャイアント・ホグウィードが確認されていますが、どのように侵入したかは不明です。ブリティッシュコロンビア州での最初の報告は1930年代にさかのぼります。
ロシアの状況
一方で、ジャイアント・ホグウィードはロシアでは広がっていません。代わりに、同じコーカサス地方原産のホグウィードの近縁種であるH. sosnowskyiは、1947年から飼料用植物としてロシアに導入され、その後東ヨーロッパの一部でも広く自生しています。
生態学と侵略的植物としての扱い

ジャイアント・ホグウィードは、光毒性と侵略性が強いため、多くの地域で積極的な駆除対象となっています。欧州連合(EU)は、この植物の駆除を目的とした「ジャイアント・エイリアン・プロジェクト」に資金を提供しており、2017年8月2日には本種をEUの懸念外来種リストに追加しました。これにより、EU全域でジャイアント・ホグウィードの栽培、輸入、販売、繁殖が制限され、各国政府には発見時の駆除義務が課されています。
イギリスでは、1981年の野生生物・田園地帯法に基づき、ジャイアント・ホグウィードを野生に植えたり生育させたりすることは違法とされています。
アメリカでも同様に、ジャイアント・ホグウィードは連邦有害雑草として規制されており、農務省(USDA)の許可なしに米国内へ輸入したり、州間で移動させたりすることは違法です。
ニューヨーク州環境保全局は2008年から積極的に駆除プログラムを実施しており、2011年にはメイン州内の21か所でジャイアント・ホグウィードが確認されています。
まとめ
ジャイアント・ホグウィードは、その巨大さと強い光毒性から、欧米を中心に法的規制や駆除対象となっている危険な外来植物です。観賞目的で持ち込まれたものの、各地で野生化し、生態系や人間の健康に深刻な影響を及ぼしてきました。
今後、日本国内での定着が確認されれば、同様のリスクに対処するための制度的・実務的な備えが求められることになります。
ジャイアント・ホグウィードについては、簡潔にまとめたショート動画も公開中です。ぜひあわせてご覧ください。
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