ハワイでは近年、野生化したニワトリが島のあちこちで増え続けており、カウアイ島だけでも約45万羽に達すると推定されています。このニワトリたちは可愛らしい存在である一方、騒音や農地・庭への被害、交通トラブルなど、生活に直結する問題も引き起こしています。それなら「捕まえて食べてしまえばいいのでは」と考える人もいるかもしれません。しかし実際には、そう簡単にはできない理由があるのです。本記事はなぜハワイでは野生のニワトリを食べて減らすことができないのか、その背景にある事情を解説しています。
この記事の要約
- 歴史的背景と増加の理由: ポリネシア人が西暦300-500年頃にセキショクヤケイを持ち込み、その後西洋人が大型ニワトリを導入。1982年と1992年のハリケーンで鶏舎が破壊されて大量のニワトリが野生化し、天敵がいない温暖な環境で繁殖。現在カウアイ島だけで約45万羽に達し、騒音・農地被害・交通事故などの問題を引き起こしている。
- 食用にされない複雑な理由: 古代ハワイでは魚介類や豚肉など他の効率的なタンパク源が豊富で、小型のヤケイは食材としての優先度が低かった。現代では商業的な鶏肉が安価に手に入る上、野生ニワトリは肉が硬く衛生面のリスクもある。さらに文化的シンボルとして親しまれ、害虫駆除の役割もあるため、捕獲して食べることに抵抗を持つ人も多い。
- 対策の困難さ: 2024年に外来種管理の法案が可決されたものの、予算削減により十分な資金が配分されておらず、複数機関での限られた人員と資金では効果的な対策が困難。野生ニワトリは広範囲に分布し捕獲に時間と労力がかかるため、単純に捕まえて食べる方法では数を大幅に減らすことは現実的に難しい状況。
ハワイに野生のニワトリが多い理由

そもそもハワイで野生のニワトリがこれほど多く見られるようになった背景には、長い歴史といくつかの決定的な出来事があります。
ハワイに最初に持ち込まれたのは、現代の家禽化されたニワトリではなく、東南アジア原産のニワトリの祖先であるセキショクヤケイです。ポリネシア人は西暦300から500年頃の移住時に、航海の食料や儀礼用としてセキショクヤケイをハワイ諸島に持ち込みました。この鳥はニワトリと比べて小型で、半野生的な性質を持っており、現在ではポリネシアヤケイ、現地の言葉でムアと呼ばれています。
その後、18から19世紀になると、ヨーロッパ人やアメリカ人の入植者が、農業用や闘鶏用としてより大型で肉付きの良いニワトリをハワイに持ち込みました。
そして20世紀後半には、1982年のイワと、1992年のイニキという二度のハリケーンにより、特にカウアイ島で多くの鶏舎が破壊され、その結果、大量のニワトリが自然界へ逃げ出しました。本来であれば野生に放たれた家畜は捕食者によって数が制限されますが、ハワイにはヘビや大型哺乳類といった主要な捕食者がほとんどいません。さらに、年間を通して温暖な気候と豊富な餌資源が揃っているため、順調に繁殖し、野生化しました。この過程で、逃げ出したニワトリは現地のポリネシアヤケイと交雑し、現在のハワイの野生ニワトリは両者の遺伝的特徴を併せ持つ独特な集団となっています。
ハワイの野生化したニワトリには、ムカデや蚊、外来性の昆虫などを捕食するというプラスの側面もあります。調査によっては、病気を媒介する昆虫の数を地域によって最大で約40%減らしている可能性が指摘されています。また、観光客の多くは道端を歩くニワトリを「ハワイらしい光景」として好意的に受け止めており、観光ツアーの演出に取り入れられることもあります。さらに、ポリネシア人が持ち込んだヤケイは、ハワイの歴史や文化の一部と捉えられることもあります。
しかしその一方で、野生のニワトリの増加は深刻な問題も引き起こしています。最も分かりやすいのが騒音問題です。特にオスのニワトリは夜明け前や深夜でも構わず鳴くため、住民の睡眠を妨げます。都市部では苦情が相次ぎ、ホノルル市ではニワトリ対策に毎年数万ドル規模の費用がかかっています。
また、庭や農地への被害も無視できません。ニワトリは地面を掘り返して餌を探すため、家庭菜園や芝生、観賞用の植栽が荒らされてしまいます。場合によっては、たった一羽でも数万円相当の造園被害が出ることもあるほどです。
さらに、交通安全の面でも問題があります。道路に突然飛び出すニワトリが原因で、急ブレーキや接触事故が起きるケースも少なくありません。重大事故に至らなくても、年間で数百件規模の軽微な事故やヒヤリとする事例が報告されています。
このように、ハワイの野生のニワトリは「文化的・生態的に一定の価値を持つ存在」である一方で、生活環境や安全面では確実に問題を引き起こしている存在でもあります。
それならなぜ、捕まえて食べて減らさないのでしょうか。
なぜハワイでは野生のニワトリを食べないのか

これほど数が多く、身近にいるにもかかわらず、ハワイでは野生のニワトリが食用としてほとんど利用されていません。
ポリネシア人にとってヤケイは長距離航海の際に重要な存在でした。生きたまま運ぶことができ、繁殖も可能なため、航海中の非常用の食料や家畜資源として重宝されていたと考えられています。
しかし、ハワイの島々に定住すると状況は大きく変わりました。周囲の海には魚や甲殻類、貝類が豊富に存在し、内陸のタロ畑では水生生物も育てられていました。さらに、豚の飼育は重要な農業の一部であり、主要なタンパク源として人々の生活に欠かせない存在でした。
その一方で、ポリネシアヤケイはごく限られた数しか持ち込まれなかったため、遺伝的多様性が低く、他の文化で行われていたような積極的な品種改良はあまり行われませんでした。そのため、肉付きは小さく、現代のブロイラーのように食料として効率の良い鳥ではありません。古代ハワイ人がヤケイをどのように捕獲していたのかについての詳しい記録はほとんど残っていませんが、基本的な罠や捕獲技術が用いられていた可能性は高いと考えられています。しかし、捕獲には手間と労力がかかる一方で得られる肉の量は少ないため、確実に入手でき、安定して栄養を得られる魚介類や豚肉と比べると、ヤケイは食材としての優先度は低いものとなっていきました。
時代が下り、西洋から大型で肉付きの良い家禽がハワイに導入されると、状況はさらに変化しました。商業的に生産された安価で手に入りやすい鶏肉が普及したことで、わざわざヤケイを捕まえて食べる必要性はほとんどなくなっていきます。加えて、現代のハワイでは野生化したニワトリを狩る行為は、島ごとの法律や土地の所有者によって規制が異なり、必ず現地のルールを確認する必要があります。こうした法的・社会的な制約も、野生のニワトリを食用とする文化が定着しなかった理由のひとつと考えられます。
その結果、現代のハワイのレストランで野生のニワトリが食材として使われることはほとんどなく、一般的には商業的に飼育された鶏肉が用いられています。また、野生のニワトリは肉が硬く、衛生面のリスクも指摘されることから、あえて食べる需要はほぼ存在しないのが現状です。
文化的な配慮の面でも、野生のニワトリを食べることには一定の慎重さがあります。特定の地域に生息するニワトリに対して、個人的または家族としてのつながりを感じるネイティブハワイアンもおり、そのため捕まえて食べることに抵抗を持つ人もいます。多くの住民は概してニワトリを気に入っており、害虫駆除の役に立つうえ、とても知能の高い鳥だと考えられています。ニワトリは島の非公式なシンボルにまでなっており、土産物店ではポストカードやTシャツなど、さまざまな商品にその姿が使われています。
一方で、人々が野生のニワトリを捕まえる目的は、食用よりも闘鶏用であることが多いようです。捕まえられたニワトリの多くは闘鶏用の繁殖に回されており、近所で野生のニワトリを捕まえたり飼ったりしている人を見かける場合も、その目的であることがほとんどです。ただし、闘鶏自体はハワイ州法で明確に禁止されている違法行為であり、こうした利用は表立って行われるものではありません。
概して、「なぜハワイ人は野生のニワトリを食べないのか」という問いは、単一の理由によるものではなく、古代から続く食文化の位置づけ、タブーに代表される宗教的・社会的価値観、他に豊富で効率的なタンパク源が存在していたこと、さらに近代以降の食料事情や法的・衛生的・文化的配慮といった複数の要因が重なった結果として理解されるべきものなのです。
野生のニワトリをめぐるハワイの法制度と現状

現在、ハワイ州では野生のニワトリの管理のための法案がいくつか成立しています。たとえば、野生のニワトリを含む外来種管理や生物安全対策のための法案は2024年に可決されました。しかし、これらの法案に基づく資金は十分に配分されておらず、州や郡が効果的に対策を実施するには足りない状況です。州全体で外来種を管理するための予算は削減され、当初予定されていた支出額より大幅に減らされています。このような背景には、州財政の都合や予算の優先順位の問題、助成金の削除などがあります。
その結果、野生動物の管理は複数の機関で分担される一方で、限られた資金と人員での対応に限界があります。郡が野生動物の駆除や管理に使える資金も限られており、捕獲や駆除の規模は限定的です。さらに、野生のニワトリは道路や住宅地、農地などに広く分布しており、捕まえるには時間と労力がかかります。こうした行政上や資金面、実務上の制約があるため、現在のところ、野生のニワトリを単純に捕まえて食べるという方法では、その数を大幅に減らすことは現実的に難しい状況にあるのです。
参考:Why don t Hawaiians eat wild chickens? – The Institute for Environmental Research and Education
Why Are There So Many Wild Chickens In Hawaii?
A chicken-or-egg predicament: No funding; no feral chicken control : Maui Now
The 5 Cheapest Islands In Hawaii For Your Next Tropical Vacation


コメント