巨大生物:世界最大のタコ「ミズダコ」の生態

生物
OLYMPUS DIGITAL CAMERA

ミズダコは北太平洋に生息する世界最大のタコです。その名前は身が柔らかく水っぽいことに由来し、別名オオダコ(大蛸)とも呼ばれます。北海道ではミズダコのメスをマダコと呼ぶ地域もあり、名称が混同される場合があります。しかし、マダコは同じマダコ科に属するものの、東アジアを含む温帯海域に広く分布するため、日本の本州以南で「タコ」と言えばマダコを指します。

大きさと分布

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

マダコの腕を含めた体長は60cm程度ですが、ミズダコの成体の体重は通常約15kg、腕の幅は4.3mにもなります。最大記録では、腕を広げた大きさが9.1m、体重272kgにまで達したことがあります。また、吸盤も巨大で最大直径が6.4cmにもなり、アメリカの動物学者G.H.パーカーは一つの吸盤で16kgのものを持ち上げることができることを発見しています。

ミズダコは寒冷性のタコで、メキシコのバハカリフォルニア、アメリカのカリフォルニア、オレゴン、ワシントン、アラスカ、カナダのブリティッシュコロンビア、ロシア、中国東部、日本、朝鮮半島に沿った北太平洋沿岸に分布します。日本では主に東北地方以北の海に広く生息し、北太平洋が主な生息場所となります。水深0mから2000mまで見ることができ、冷たく酸素が豊富な水に最もよく適応しています。

生態と繁殖

Un-chan (운짱)CC BY-SA 2.0 KR, via Wikimedia Commons

通常、寿命が1年しかないほかのタコとは異なり、ミズダコの寿命は3〜5年です。繁殖は10月頃に行われ、12万から40万個の卵を産みます。この卵は膜でコーティングされており、メスによって岩などの硬い表面に付けられます。

産卵後、メスは卵の世話をして継続的に新鮮な水を吹きかけ、藻類などが付くとそれを取り除きます。また、様々な生物が卵を食べようと寄ってくるため、メスは卵をそれらから守ります。その間、餌は一切食べず、約6ヶ月間自分の体脂肪で生活します。そして卵が孵化するとすぐに死んでしまいます。

生殖期、メスたちは「セネセンス(senescence)」と呼ばれる段階に入り、食欲が減退し、目の周りの皮膚が収縮したり、全身が白くなったりするため外見が変わります。繁殖と外観の明らかな変化が起こるのです。このように、メスは一生に一度しか繁殖しません。

孵化直後から成体までの幼生は「パララルバ」と呼ばれ、水中を浮遊して過ごします。孵化したてのパララルバは米粒ほどの大きさしかなく、他のタコや小型魚類などの動物に捕食されます。このため、成体になるまで生き残るものはほとんどありません。生後100日前後になると、海底に降りて生活するようになります。

食性と狩猟行動

ミズダコが大型に成長できるのは、寒い海に生息するため大型甲殻類などの餌が豊富であり、また他のタコ類との競争が少ないことが要因だと考えられています。彼らはエビ・カニ・ロブスターなどの甲殻類、ホタテ・アワビ・アサリなどの貝類、魚類、その他のタコを手当たり次第に捕獲し、貪欲に食べてしまいます。

飼育下では長さ1.2mのアブラツノザメを捕らえたことも観察されています。同種のサメの食べられた遺体が野生のミズダコの巣で発見されており、自然の生息地においてもサメを捕食していることが示唆されます。

餌は吸盤で捕え、人の握りこぶし大ほどもあるキチン質のくちばしで、カニの甲羅や貝の殻を割ります。2012年5月には、アマチュア写真家のジンジャー・モーロイが野生のミズダコがカモメを攻撃して溺死させる様子を撮影したことが広く報じられています。このことから、ミズダコは鳥でさえも食べていることが分かりました。

危険性と知能

LASZLO ILYES from Cleveland, Ohio, USACC BY 2.0, via Wikimedia Commons

体のほとんどが柔軟な筋肉であるため力が強く、巨大な個体に絡まれたら危険です。水中のダイバーが襲われて死亡した例もあります。ただし、彼らが人間を食べるために襲うことはなく、近づきすぎたり刺激したりしない限りは滅多に人を攻撃することはありません。また、陸上では水中と違い重い体重を支えることができず動けなくなってしまいます。

タコは最も知的な無脊椎動物として知られています。ミズダコも同様で、その大きさと興味深い生態のために多くの水族館で展示されています。特定の人物に対し、水を噴射したり、体の質感を変えたりするなど一貫した行動をとることから、よく接触する人間を認識することができると考えられています。

また、彼らには簡単なパズルを解いたり、瓶の蓋を開けたり、道具を使ったりする能力もあります。一部の研究者は、ミズダコにはそれぞれ個性さえあると主張しているほどです。ただ、その知能の高さゆえ、水槽のバルブを開き、高価な機器を分解してしまうなど、実験室や水族館に大混乱をもたらすことがあります。

天敵と漁業

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

シャチやマッコウクジラなどの海洋哺乳類がミズダコを捕食しますが、これらの生物に捕食されるのは小さな個体である場合が多く、十分に育った成体にはあまり敵はいないと考えられています。ただ、ミズダコにとって最も致命的な天敵は人間です。何千年もの間、人間は様々な網などを使って彼らを捕まえてきました。

現在、ミズダコは体が大きい分、水産上重要視され、蛸壺によって漁獲されます。ミズダコは約330万トンが商業的に漁獲されており、年間60億ドルの商業価値があります。また、マダコの流通が少ない北海道や東北地方で「タコ」というと、大抵はミズダコであり、北海道ではタコ類の中で最も多く漁獲されます。

食用としての価値

ミズダコの旬は地域により異なり、稚内を中心とした宗谷地区で6月後半から10月に旬を迎えます。留萌では6月後半から7月、北海道では7月と11月が旬です。また、根室地区では8月から10月、2月にかけて旬となります。

ミズダコはマダコに比べて皮膚だけでなく肉質も柔らかく水っぽくなります。そのため、かつてはマダコと比較され、評価が低かったのですが、近年マダコの漁獲量減少により見直されています。甘味が強いマダコより美味しくないという人もいれば、食感としては水ダコの方が歯触りが良いという人や、吸盤が大きいミズダコの方を好む人もいるなど、意見が分かれます。また、メスの方がオスよりも味が良いという意見もあります。

料理方法としては、刺身、たこ焼き、おでん、たこしゃぶ、唐揚げ、煮物、焼物、燻製、酢だこ、塩辛などがあります。北海道・東北ではマダコの代わりに伝統的タコ料理として利用され、正月料理に使われるタコの多くがミズダコです。

この記事はYouTubeの動画でも見ることができます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました