ブチハイエナが家畜化されなかった理由

生物

ブチハイエナは頭が良く、社会性のある動物です。アフリカのある地域では人間から直接エサを与えられている集団もあります。それではなぜ、この動物は家畜化されることがなかったのでしょうか?

この記事はハイエナが家畜化されなかった理由について説明しています。

家畜化の定義

その前に家畜の定義ですが、家畜とは単なる飼い馴らしとは違い、人間の選択交配によって品種改良された動物のことを言います。そのため、家畜は野生種とは遺伝的にことなっています。

ハイエナとは

ブチハイエナはネコ目ハイエナ科ブチハイエナ属に分類される動物です。イヌに似た姿をしていますが、ジャコウネコ科の近縁になります。彼らはアフリカ大陸に生息し、体長は大きいもので165cm、体重は86kgに達し、ハイエナの中では最大となります。頑丈な歯を持ち、アゴの力が強いことも相まって、獣の骨を噛み砕くことができます。

ハイエナというと腐肉を漁り、ほかの動物の獲物を横取りするイメージが強いですが、ブチハイエナは足が速く、体力のある優秀なハンターで、その食べ物の6割以上は自分たちで捉えた獲物です。さらに、ブチハイエナは他のハイエナと違い、高い社会性を備えており、群れで行動します。

そして頭がいい為、個体を飼いならすことも可能です。

ハイエナマン

エチオピアではハイエナマンと呼ばれるハイエナを飼いならす人たちがいます。ハラールという都市ではでは時折りハイエナの群れに住民や家畜が襲われるという問題が起こっていました。そこである農家がハイエナにエサを与え、飼い馴らし始めました。その後、彼の子孫はこの習慣を続け、現在まで引き継がれています。

現在でもハイエナは毎晩、ハラールに訪れていますが、ハイエナマンのおかげで住民がそれに怯えることはなくなりました。最初の農家がハイエナに餌付けをし始めてから60年の間、襲われた人はひとりもいないと言われています。

このように、ハイエナは頭がよくて社会性があり、人になれる動物です。

また、イヌの家畜化は人間が捨てた残飯を食べるために、住居の近くにオオカミが棲みだしたのが始まりだと言われています。これらのことから、ハイエナが家畜化されていてもおかしくないように思えます。

しかし、実際にはハイエナが家畜化されることはありませんでした。

その理由は、ハイエナの群れの構成にあります。家畜化とはその動物の社会を世代を通して、人間の社会に取り込むことを意味します。

オオカミの群れの構造

オオカミの社会の構造は夫婦のペアからなります。オスのオオカミは大人になると自分の生まれ育った家族を出ます。そして、メスと出会い、夫婦となって子供を産み、いっしょに子育てをするのです。子どもたちは充分、独立して生活するだけの能力を身につけるまでは親の元にとどまり、自分より若い子供を育てる手伝いをします。また、オオカミの群れは血縁関係のないものを受け入れる事も出来ますこのような性質が人間を受け入れることを可能にしたのです。

ハイエナの群れの構造

しかし、ハイエナの社会の構造はオオカミとは全く違います。ハイエナの中でも最も高度な社会をつくるブチハイエナの群れは、母系で繋がった血縁集団からなります。ハイエナはオスよりもメスの方が大型になり力を持っています。このメス中心の群れに血縁のない、よそ群れで生まれたオスがメスたちより低い地位で加わります。そして、メスたちの交尾相手となるのです。また群れのメスの中でも最も有意なものがリーダーとなり、多くの子どもを産みます。その個体が死ぬと、自身の最も若い娘が群れのリーダーの地位を継ぐのです。

このように、ハイエナの群れには人の社会を受け入れる隙間はひとつもありません。

ハイエナは繁殖力が低い

その他の理由として、家畜動物にとって重要である繁殖率が極めて低いことが挙げられます。

ハイエナのメスの生殖器はオスの陰茎のようになっており、これは擬陰茎と呼ばれています。そして、この擬陰茎は産道もかねているのです。このような細く長い特殊な産道を持っているため、初産の子の60%が死産となります。母親にとっても危険で5頭に1頭が初産の傷が原因で死んでしまうほどです。

このような擬陰茎を持つようになったのは、先ほど説明したブチハイエナのメス優位の社会にあります。ブチハイエナ社会では群れを守るのもメスの仕事です。そのため、攻撃的な個体の方が有利となります。この攻撃性を作るために大量の男性ホルモンが必要で、その結果、メスの生殖器の外見もオスのようになったというわけです。

人間に人気がない

最後に、単純に人間に人気がなかったという理由が挙げられます。

アフリカの神話では一般にブチハイエナは野蛮で危険な動物と考えられています。西アフリカ、特にイスラム教の影響の強い地域では、ブチハイエナは不道徳の象徴として描かれ、イスラム教を冒涜する動物です。中東では裏切りや愚かさの象徴で、タンザニアでは魔女の乗り物とされています。ほかの地域では墓荒らし、魔女の馬などのイメージで語られるところもあり、狼男のように人間になりすますハイエナの伝承もあります。

さらにハイエナは毛皮が美しくないため、狩猟の獲物としても人気がありません。また、現代の社会でもブチハイエナは、その印象や外見などから動物園では不人気であり、結果として飼育している動物園は少なく、展示している動物園でも高価な設備はイヌ科の動物に優先して与えられ、ブチハイエナは比較的劣悪な環境下で育てられることが少なくありません。

家畜化が難しい動物の特徴はジャレド・ダイアモンドによる1997年刊行の書籍『銃・病原菌・鉄』にて詳しく説明されています。

この記事はYouTubeの動画でも見ることができます。

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