ワニ目は現在、熱帯から亜熱帯にかけて23種が分布し、日本には生息していません。それではなぜ日本にワニはいないのでしょうか?
ワニとは
ワニとはワニ目に属する肉食性で水中生活に適応した爬虫類で、アリゲーター科、クロコダイル科、ガビア科かの3科に分類されます。
このワニ目は中生代後期白亜紀に出現して以来、すべての時代を通して淡水域の生態系で頂点捕食者の地位を占めてきました。
ワニは他の爬虫類と同様に変温動物で体温調節をするのに外部の熱に頼っています。そのため、鳥類や哺乳類とは異なり、ワニは生理的な手段で体温を一定に保つことができません。
ワニは棲息する環境内の暖かい場所と涼しい場所の間を移動する事で体温を調節します。種類にもよりますが、ワニの好ましい気温の範囲は約30から33度です。これを実現するために、寒い天候では日光浴をして体を温め、暑い天候では日陰の涼しい場所を探して加熱を回避します。
そのため、温帯気候の日本でワニは生息していません。
日本に生息していたワニ
ただし、例外がありました。それが、かつて日本に生息していたマチカネワニという種です。彼らは温帯に適応していたとされる珍しいワニでした。1964年、大阪府豊中の待兼山にある大阪大学の新校舎の建設現場から新生代更新世中期(145万年前)の地層から化石が発見されました。
この日本で最初に発見されたワニ類の化石は頭骨の長さが1mを優に超えており、体調が6.9~7.7m、体重が1.3tあったと推定され、ワニ類の中でも大型に属します。
このワニは1965年の論文で産地の名前をとってTomistoma machikanense(トミストマ・マチカネンセ)と命名されました。それ以降、マチカネワニと呼ばれ、大阪大学の公式マスコットキャラクター「ワニ博士」の他、豊中市のキャラクター「マチカネくん」としてマスコット図案化され、学生・市民に親しまれています。
その後、再研究された結果、新属のワニとして古事記に登場しワニに化したと伝えられる豊玉姫にちなんだ属名を冠した学名 Toyotamaphimeia machikanensis (トヨタマヒメイア・マチカネンシス)と命名されました。
マチカネワニはどこからどうやって日本に来たのか?
マチカネワニは世界的にみても大変貴重な化石標本ですが、彼らはいつどこから日本に来て、どのように暮らし、そして絶滅したのでしょうか?
マチカネワニの祖先は約5700万年前のヨーロッパに起源があり、進化を繰り返してアフリカ、インドや東南アジアを経ておよそ1500万年前には東アジアに生息していたことがわかっています。
それでは、どうやってワニたちは大陸から日本まで海を渡ってきたのでしょうか?
現生するイリエワニとアメリカワニは海を移動することが可能で、浸透圧を調整できる塩類線を持ちます。塩類線は過剰な塩分を体外に排出でき、この特性により海水中でも生存できるのです。
イリエワニはインド南東部からベトナムフィリピンにかけてのアジア大陸、スンダ列島からニューギニア島およびオーストラリア北部沿岸、東はカロリン諸島あたりまでの広い範囲に分布し、主に汽水域に生息し、三角州のマングローブを好みます。
彼らは海流に乗って沖合に出て、島嶼などへ移動することもあり、オーストラリア北部には近年になって東南アジアから海伝いに分布を広げたと考えられています。
このように、イリエワニは海で長距離を泳ぐ事が出来るため、個体は一般的な生息域から遠く離れたフィジーで時折現れます。
中国ではかつて福建省からベトナム国境までの沿岸地域に生息していた可能性があります。
また、日本の沿岸海域でもイリエワニが発見されたという歴史的記録が3件あります。1744年に硫黄島沖で1匹、1800年に奄美大島沖で1匹、最後に1932年に富山湾で漁師が三匹目を捕獲しました。
イリエワニは一般に熱帯域の淡水の湿地や川で過ごし、乾季には下流の河口に移動します。このとき、彼らは縄張りをめぐって互いに激しく競争し、特に優位なオスは最も適した小川や川を占領します。そのため、若いワニは海に追いやられる事があり、このこと、がこの種が広く分布していること、また日本海のような奇妙な場所でも時折発見される理由を説明しています。
そして、マチカネワニのグループも塩類腺を備えていた可能性があり、海を渡ってイリエワニのように日本まで到達したのかもしれません。
マチカネワニの生態はどのようだったのか?
マチカネワニの化石が含まれていた地層から発見された花粉化石の分析によると、当時の気候はもっと涼しい温帯型の気候であったと考えられています。もしそうだとすれば、マチカネワニは熱帯や亜熱帯に生息する現生のワニとは違い温帯型の珍しいワニだったということになります。
彼らはヒシなどが生えていた陸地内部で生活していました。
現生する東南アジアのマレーガビアルやインドに住んでいるインドガビアルは吻部が長く、細長く鋭い同じ形の歯がほぼ等間隔の隙間をあけて並んでいます。これは魚を捕らえるのに適しています。マチカネワニも吻部が長い為、魚を食べていたと考えられますが、歯はマレーガビアルやインドガビアルと異なり太、く頑丈に出来ているうえ、前方の歯は隙間をあけて並んでいる一方、後方の歯は隙間なく密に並んでいるので、食べ物を噛み砕く能力があった可能性が高く、魚以外の動物も食べていたことが考えられます。
また、インドガビアルやマレーガビアルといった吻部の細長いワニの咬合力を推定する数式があり、マチカネワニをこの数式に当てはめると咬合力は1.2tあったと推定されています。これは魚類だけでなく、陸上哺乳類を噛み砕いて捕食できる値です。
この時代の哺乳類ではトウヨウゾウの他にヤベオオツノジカやシナサイ、タヌキ、ハリネズミ、トガリネズミなどが知られており、それらと共に過ごしたと考えられています。
なぜマチカネワニは絶滅したのか?
マチカネワニの化石は大阪以外にも各地で見つかっていますが、その記録は30から40万年前で途絶えています。
これは日本のワニが生息していた時期が、あなたたち人類が日本に到達する約4万年前よりもずっと前ということになります。このため、マチカネワニが絶滅した原因は人間活動とは関係ないようです。
絶滅の原因を氷期に環境が変わった為だとする意見もありますが、日本の気候に適応していたマチカネワニが絶滅した理由はまだはっきり分かっておらず、現在も研究が続いています。
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