なぜチーターを家畜化できないのか?

生物

チーターは何千年も前から皇帝や王、ファラオなど裕福な人々に富のしるしとして所有され、狩猟用として飼育されてきました。それにもかかわらず、なぜ現在チーターは家畜動物ではないのでしょうか?

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チーターの基本情報

チーターはサバンナや半砂漠地帯などに生息するネコ科動物で、体長が110~150cm、体重が35~72kgになります。彼らは約3秒で時速0kmから96kmまで加速できるとされ、世界最速の哺乳類と言われており、ガゼルなどの小型から中型の有蹄類、大型有蹄類の幼獣などを食べ、ノウサギ類や鳥類を捕食することもあります。

チーターによる狩猟

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現在では信じがたいことですが、少なくとも数千年前から人間はチーターに狩りをさせるために訓練をしてきました。エジプト人は猫を飼っていただけでなく、紀元前1550年以前からチーターを飼い慣らしていたのです。彼らはチーターに人間と一緒に狩りをするように教えましたが、子どもを捕まえて人間の間で育てることはしませんでした。そうではなく、すでに狩りの方法を覚えた大人のチーターを捕らえてきたのです。

狩りの間、訓練されたチーターは適切な瞬間まで目隠しをされており、獲物が現れた瞬間、放されました。この狩猟方法は、エジプトからペルシャやインドへと広がり、少なくとも20世紀まで続きました。そのため、ヒーターはしばしば狩猟豹(しゅりょうひょう)などと呼ばれていました。

チーターはサハラ以南のアフリカの多くで見られますがアジアにも生息しています。しかしアジアにいるチーターの数は僅か60頭しか残っておらず、そのすべてがイランにのみ生息しています。このようにアジアのチーターは現在、絶滅の危機に瀕していますが、かつてはインドと南西アジアでよく見られました。

野生のチーターを捕らえて飼育していたことはアジアに生息するチーターの急速な減少に関与した可能性があります。チーターがインドで珍しくなってからは、裕福な人々は狩猟のためにアフリカのチーターを輸入していました。

チーターを捕らえる時は木に罠を仕掛けておき、チーターが爪を研ぐため、この木に近づいたところを捕らえました。一度チーターを捕らえると、女性と子どもたちは一日中チーターの近くに座っておしゃべりをしました。これは人間の声に慣れさせるためです。このため、ヒーターを訓練するのには数ヶ月間かかったと考えられています。

チーター狩猟の目的


Victoria and Albert Museum
CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

しかし、このようなチーターによる狩猟は生活のためではありません。裕福な人々や王族たちはスポーツハンティングのためにチーターを飼育していたのです。ムガル帝国の皇帝アクバル1世はインドでチーターに狩りをさせた最初の人でした。1555年、ファテバズという名前のチーターが初めて彼に送られて以来、最も多いときは一度に1000頭のチーターを飼っていたとされ、治世中の49年間で9000頭のチーターを飼育していたと言われています。

チーターを使った狩猟の習慣は、ロシアとモンゴル、そしてアゼルバイジャン、アルメニア、ジョージアにまで広がっています。1474年にアルメニアの支配者が100匹のチーターを飼っていたという報告が残っています。

チーターによる狩猟は20世紀に多くが終了しましたが、いくつかの場所では今も続いており、現在でもアラブ首長国連邦の金持ちによってペットとして飼われているようです。またアフリカや中東の国々では狩猟の手伝いをさせているところもあります。

その他、チーターの毛皮が利用される地域もあります。

しかし、チーターの脆弱な保全状況から、人間の娯楽として使用するために野生のチーターを捕獲することは許可されていません。

チーターを家畜化できない理由

これまで多くの地域でたくさんのチーターが調教されてきたにもかかわらず、どうして家畜化できなかったのでしょう?

  • チーターは繁殖力が低い

それは第一に、チーターの繁殖力の低さが考えられます。チーターは決まった発情期がないうえ、メスは発情しても普段と異なる行動を見せることが少なく、発情しているとの判断は難しいのです。加えて一般的にネコ科の発情期が約2週間あるのに対して、ヒーターは一から2日間と極端に短く、発情期の判断が遅れると交尾のチャンスを逃してしまいます。

そのため、飼育下での繁殖は特に難しいのです。

そしてチーターのお見合いを設定しても必ずしもお互いの好みに合うわけではありません。発情したメスは木や茂みなどに放尿してその匂いを嗅ぎつけた優位のオスは、鳴き声を上げながらメスを追跡するのですが、このような充分な広さを飼育下で確保することは困難です。

そのため、動物園でチーターの繁殖を促進するために、例えば野生のチーターから採取した精子や卵子を使用するなどして、体外受精や代理出産といった技術を用いるなど、さまざまな試みが行なわれています。

また、チーターは必ず親から狩りを学びます。チーターの子どもは生まれてから約2年間、母親と一緒に暮らしますが、その間に母親は子どもたちに狩りの方法や敵から身を守る方法を教えます。

彼らは狩りをする時に高速で走ることができますがそれだけでは充分ではありません。獲物を見つけたり、追いかけたり捕まえたりするには戦略や技術が必要です。それらは親から学ぶことで身に着けます。

狩猟用のチーターがすべて大人を捕らえていたのはこのためで、人間が狩りを教える事は出来ないのです。

  • 人間をリーダーとみなさない

さらに、チーターが家畜化できない理由として、人間をリーダーとみなさないことが挙げられます。

チーターは母親とその子ども、血縁関係のある個体、そして、まれにこうした群れに兄弟ではない個体が含まれる小規模な群れを形成することがありますが、基本的には単独で生活します。また、オスは縄張りを形成します。

一方、家畜化できる動物は序列性のある集団を形成します。群れを形成する動物にも個体間で序列制を作り、自身よりも序列上位の個体の行動に習う習性を持つ種と持たない種がいますが、馬や羊などは前者の典型であり、集団のヒエラルキーの頂点に人をすえることで容易に集団のコントロールが可能になります。このため、チーターは人間になれることはあっても、人間をリーダーとみなさないので家畜化は難しいのです。

  • 食費がかかりすぎる

また、食糧の問題も挙げられます。多くの種類の食糧を進んで食べ、また生態ピラミッドの下位に位置する飼料、その中でも特に人が食べられないマグサや牧草などの餌を主食とする動物は飼育に多くの出費を必要としないため、家畜化されやすくなります。その点、純粋な肉食動物はたくさんの動物の肉を必要とするため、家畜としては適していません。例外として、もともと肉食だった犬や猫は残飯で飼育できたため家畜化が可能になりましたが、チーターはできませんでした。

このようなことから、チーターは家畜化されることがなかったのです。

家畜化できない動物についてはジャレド・ダイアモンドによる1997年刊行の学際的なノンフィクション書籍『銃・病原菌・鉄』で詳しく説明されているので興味を持たれた方は見ていたただくと参考になると思います。

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