なぜサボテンはアフリカの砂漠に自生していないのか?【サボテンの進化の歴史】

生物

砂漠に生える植物と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、サボテンではないでしょうか?

ただし、このサボテンはアメリカ大陸原産のため、後に説明するひとつの例外を除いて、アフリカの砂漠には自生していません。一見、サボテンに似た多肉植物がアフリカで見られますが、これらはサボテンとは別の科の植物です。

この記事はサボテンの進化の歴史を見ていくとともに、なぜサボテンがアフリカに自生していないのかについて説明しています。

サボテンがアフリカの砂漠に自生していない理由

Cactaceae_distrib_kz.jpg: Kenraiz, Krzysztof Ziarnek derivative work: Peter coxheadCC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

サボテンがアフリカ原産ではないという事実は、進化と生物地理学を考えるうえで、非常に興味深い代表例です。

サボテンはカナダ南部からアルゼンチンの先端までのアメリカ大陸原産で、アフリカに存在しないのは、約1億3,500万年前に起こった大陸の分離に起因します。この分離により、植物は大陸間を移動できなくなりました。

サボテンとは?

サボテンはナデシコ目サボテン科に属する植物の総称で、約127属、約1,750種が知られており、さまざまな形や大きさのものがあります。

この科の植物は地球上で最も乾燥した場所のひとつであるアタカマ砂漠を含む、非常に乾燥した環境に適応しています。そのため、サボテンには水分を節約する、様々な機能が備わっています。

たとえば、ほとんどすべてのサボテンは多肉植物です。多肉植物とは厚い肉質の葉や茎を持つ植物のことで、これは水分を効率よく貯えるのに適しています。

ただし、ほかの多くの多肉植物とは異なり、ほとんどのサボテンでは葉が変形し、トゲになっているため、この重要なプロセスが行われるのは茎だけです。

その代わり、サボテンのトゲは草食動物から身を守るだけでなく、吹きあれる砂嵐から大切な茎を守ったり、日陰を作ることで水分の損失を防いだりするのに役立っています。

サボテンの起源

Hannes Grobe (map)and Marijo Readey (distribution)CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

サボテンは化石記録がほとんど残っていないため、その起源の年代と場所を推定するのが最も難しい植物群のひとつとなっています。

発見されているサボテンの最古の痕跡は、北米の砂漠でモリネズミの糞から見つかった、ウチワサボテンの化石化した種子とトゲです。この化石は放射性炭素年代測定で、30,800年前のものだと考えられています。

それ以前の起源を特定することは困難ですが、より最近の分子生物学的研究によると、サボテン科は比較的最近出現したもので最初のサボテンはおそらく3000万年から3500万年前に南アメリカ南部で出現したと考えられています。

超大陸ゴンドワナは今から約2億年ほど前から分裂を始め、白亜紀前期の約1億4000万年前に、アフリカと南アメリカが分離したと考えられているため、サボテンが出現したのはそのずっと後ということになります。

そのため、サボテンはアフリカおよびユーラシアの旧大陸には分布を広げることができなかったのです。

初期のサボテン

Original: Arria BelliDerived: Peter coxheadCC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

最初のサボテンは葉で光合成を行う、わずかに多肉質の低木またはショウボクだったと考えられています。それらは、周期的な干ばつに見舞われる熱帯地域に生息していました。

レウエンベルゲリア・ブレオLeuenbergeria bleo)は主にパナマからコロンビア西部に分布するサボテン科の植物です。この種は細い枝と明確な葉を備えており、一見サボテンには見えません。しかし、葉と茎のまたになった部分にサボテン科特有のトゲがあり、乾燥した環境に適応して水を貯める能力も備わっています。


初期のサボテンがレウエンベルゲリア・ブレオのようなものだとすれば、表面的には近くに生えている他の木と似ていたとしても、すでに水を節約する戦略を進化させていたということになります。

多様化するサボテン

その後、約2500万から2000万年前に、アンデス山脈の形成が始まったときに大陸が隆起したことで、周辺の地域は乾燥し、これに伴い、サボテンの種分化の速度も加速しました。この頃に、多肉質の強い茎を持つサボテンが生まれたと考えられています。

一方のアフリカでは乾燥した環境の拡大と同時期に、これに適応するために独自の多肉植物が進化しました。南アフリカのハマミズナ科やマダガスカルのディディエレア科などのほかの多肉植物はサボテンに似ていますが、近縁ではありません。これは異なる種が独立して同様の特徴を発達させる、収斂進化の例と言えます。

そして、約500万年前になると現在のパナマ陸橋が形成され、南北アメリカ大陸が最終的に結合しました。この500万年の間に、サボテンは米国全土からカナダの一部にまで分布を広げ、アメリカの両大陸で独自に繁栄したのです。

南北アメリカ大陸以外に自生する唯一のサボテン

SalicynaCC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

しかし、冒頭でも述べた通り、ひとつだけ例外があります。

それが、Rhipsalis bacciferaというサボテンの一種です。この種は中央アメリカ、南アメリカ、カリブ海、フロリダのほか、アフリカの熱帯地方全域やマダガスカル、スリランカにも見られます。このように、Rhipsalis bacciferaはアメリカ大陸以外で自然に生息する唯一のサボテンです。

この種は比較的最近、旧世界の一部に広がりました。

それではどのようにして大陸を越えて渡ったというのでしょうか?

ひとつの説は、渡り鳥の消化管によって種子が運ばれて広がったというもので、実際、この種は鳥を利用して種子を分散させています。また、旧世界の個体群は亜種と見なされており、これはこの拡散が最近ではなかったという考えを裏付けています。

別の仮説では、南アメリカとアフリカの間をヨーロッパの貿易船で運ばれ、その後、鳥によってさらに広く拡散した可能性があります。

栽培されるサボテン

このように、サボテンは乾燥や高温に強いため、アフリカの環境にも適応することができます。

アフリカでは土壌浸食を防ぐ目的で、干ばつ地域でサボテンが栽培されることがあります。

また、食用に栽培されている地域もあり、これらは貴重な栄養源となり、特に乾燥地帯の住民にとって重要です。

そして、家畜の飼料としても利用されます。乾燥した環境でも育つサボテンは牧草が不足する地域での飼料供給源となっています。

外来種としてのサボテン

サボテンが多くの地域で役立っている一方で、多くの種がオーストラリアやハワイ、地中海などの地域に人々によって持ち込まれた後、アメリカ大陸以外で帰化し、問題となっています。

オーストラリアでは特にセンニンサボテンが野生化し、急速に分布を広げています。この種は天然の農業用フェンスとして、または、コチニール産業を確立する試みのために19世紀に持ち込まれました。

アラビア半島でも、外来種のサボテンが数多く生息し、増え続けています。これらの種もまた、栽培されていたものが侵入種となったと考えられています。

この記事はYouTubeの動画でも見ることができます。

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