グアムで何万匹ものネズミが空中投下!外来種ミナミオオガシラ駆除作戦の全貌

生物

2013年12月1日、グアムの密林に段ボール製の小さなパラシュートを付けた 2,000匹のネズミが空中投下されました 彼らの任務はミナミオオガシラと呼ばれる外来種のヘビの根絶でしたが、 ネズミ自身がその使命を理解することはありませんでした。それもそのはず、彼らはすでに死んでいたからです。しかも、鎮痛剤を大量に注入されていました それでは一体このネズミがどのようにしてヘビを根絶できるというのでしょうか?本記事はその理由について詳しく説明しています。

Pavel Kirillov from St.Petersburg, RussiaCC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
  • 問題の背景: グアム島に侵入した外来種のミナミオオガシラ(ヘビ)が、生態系と経済に壊滅的な被害をもたらした。
  • 影響: ミナミオオガシラは、鳥類などの在来種を捕食し個体数を増やし、停電による経済損失を招いている。
  • 駆除方法: 2013年には、鎮痛剤(アセトアミノフェン)を注入したネズミをヘリコプターで空中投下する作戦が実施され、一定の効果を示した。
  • 成功と限界: 作戦は部分的にヘビの死を確認したものの、完全な根絶には至らず。他の地域では食性の違いから効果が薄いことも判明した。
  • 今後の取り組み: 科学者たちはさらなる駆除方法を模索し続け、グアムの生態系回復を目指している。

ミナミオオガシラの基本情報

ミナミオオガシラはナミヘビ科に属する大型のヘビで、全長は最大2メートルに達します。ナミヘビ科の蛇は「後牙類」とも呼ばれ、その特徴として上あごの後方に2本の溝状の毒牙を持っています。本種の毒牙は液が漏れない官牙ではなく、漏れやすい溝牙です。このため、毒の殺傷力は低く、健康な成人がこのヘビに噛まれて死亡することはほとんどありません。しかし、子供の場合は状況が異なり、体内の毒量が血液量に対して相対的に大きくなるため、 重篤な症状を引き起こす可能性があります。

ミナミオオガシラの原産地は、オーストラリアの東部および北部沿岸地域、 パプアニューギニア、そしてメラネシア北西部の島々に及びます。

グアム島へは第二次世界大戦終了直後から1952年にかけて 原産地である南太平洋のいずれかの地域から、船荷に紛れて非意図的に移入されたと考えられています。

ミナミオオガシラによる被害と現状

ミナミオオガシラは非常に幅広い食性を持ち、原産地では鳥類、 コウモリ、トカゲなどの小型の脊椎動物を捕食していますが、グアム島では主に鳥類やトガリネズミを餌としています。この島はミナミオオガシラにとって餌が豊富であり、 さらに野生化したブタやマングローブオオトカゲを除けば天敵がほとんど存在しない環境でした。そのため、個体数が急速に増え、結果、多くの在来生物種が減少し 島の生態系に壊滅的な被害をもたらしたのです。

この問題は島の生態系だけにとどまりません。ミナミオオガシラは経済にも多大な被害を与えています。この島では西太平洋の他の島々にある大規模工業団地と同様に ヘビが変電所に侵入することで頻繁に停電が発生しています。2005年の推定によれば、年間平均80件の停電が記録され、 その修理費と生産性の低下によって、年間約400万ドルの損失が生じているとされています。

U.S. Department of AgricultureCC BY 2.0, via Wikimedia Commons

そのため、ミナミオオガシラの駆除を目的として、これまでに多くの対策が試されてきました。ヘビ捕獲器やヘビ探知犬、さらにはヘビ狩り検査官といったさまざまな手段が試みられ、 これらは個体数の抑制に一定の効果を示してきました。しかし、ヘビが適応力に優れていたため、その対策にも限界があり、 現在ではグアム全域に蔓延してしまっているのが現状です。

今日、グアムには推定200万匹ものミナミオオガシラが生息しており、 一部の地域では1平方マイルあたり1万3,000匹という非常に高い密度に達しています。この密度は、アマゾンの熱帯雨林におけるヘビの密度をも超える数です。

ミナミオオガシラの弱点と駆除作戦

しかし、ミナミオオガシラには弱点があることがわかりました。それが、市販の鎮痛剤の有効成分、アセトアミノフェンです。どういう訳か、ミナミオオガシラはこの成分に対して非常に敏感であり、 80ミリグラムを摂取するだけで致死的な影響を受けます。この量は標準的な錠剤の約6分の1ほどです。一方で、豚や犬などと同程度の大きさの動物が致死量に達するには、 鎮痛剤を注入されたこのネズミを約500匹食べる必要があります。

ミナミオオガシラはネズミを好むため、ネズミを使って誘引し、 アセトアミノフェンを食べさせるのは比較的簡単です。しかし、問題はそのネズミをどのようにしてヘビに届けるかという点にありました。そこで採用されたのが、ヘリコプターを使って森林地帯を低空飛行し、 決められた順番で鎮痛剤入りネズミを投下する方法です。

U.S. Department of AgricultureCC BY 2.0, via Wikimedia Commons

それぞれのネズミには致死量のアセトアミノフェンが注入されており、 2枚の段ボールと緑色のティッシュペーパーに取り付けられています。そして、段ボールはティッシュペーパーよりも重いため、木の枝に引っかかることで、 逆馬蹄形に開く仕組みになっています。この方法により、ヘビがネズミを見つけて食べやすくなるという訳です。

Brown Tree Snake aerial bait cartridge hanging from tree on Guam. The bait was distributed from a helicopter fitted with an automated bait delivery system. USDA photo by APHIS Wildlife Services.

さらに、野生生物保護活動家たちは、このネズミ投下作戦がどれだけ効果的であるかを記録する手段として、アセトアミノフェンとパラシュートに加え、小型のデータ送信無線機をいくつかのネズミに装着しています。

2013年から16か月間にわたって行われたこの作戦では、 55ヘクタールの異なる2か所の森林地帯にネズミが空中投下されました。一方、同じ大きさの3番目の森林地帯は、対照区域として手を加えずそのまま残されています。この時、国立野生生物研究センターがこの作戦の効果や、 意図しない環境への影響を引き起こしていないかを評価するために ヘビとネズミの両方の個体群が追跡されました。

U.S. Department of AgricultureCC BY 2.0, via Wikimedia Commons

さらに、2019年5月と6月には、追加の投下作戦が行われています。研究者たちは実験対象として30匹のミナミオオガシラを選び、 それぞれに送信機を埋め込んだ後、元の場所に戻しました。その後、研究区画内において約2万匹の鎮痛剤入りネズミを数週間かけて空中投下しました。

この試みでは、タグ付きの30匹のヘビのうち11匹が期間中に死亡していることが確認されています。一方で、非期間中には死亡例が確認されていません。そのため、このデータは作戦に効果があったことを裏付けています。

作戦の限界と今後の取り組み

しかし、鎮痛剤入りネズミ作戦は一定の効果を示したものの ヘビの完全な根絶には至っていません。

さらなるフィールドワークでは、この方法の限界が明らかとなっています。2020年にココス島で新たなミナミオオガシラの個体群が発見された際、 研究者たちは鎮痛剤入りネズミを含む、複数の対策を検討しました。しかし、ネズミは食べられず、捕獲されたヘビはわずか1匹だったのです。研究者たちはこの失敗の原因を ネズミ以外に大型のヤモリや鳥など、ヘビが好む獲物が豊富に存在している点にあると考えています。

そのため、研究者たちはさらに効果的な方法を模索している最中です。ミナミオオガシラの駆除は容易ではありませんが、島の生態系と経済を守るため、 科学者や保護活動家たちは試行錯誤を続けています。この取り組みが実を結び、グアム島がかつての豊かな自然を取り戻し、 多様な生態系が再び息づく日が訪れることを心から願っています。

この記事はYouTubeの動画でも見ることができます。

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