なぜ世界中でアルバータ州にだけネズミがいないのか?

生物

現代の人類は南極大陸と北極圏の一部を除く、ほぼ全ての陸地に広く分布しています。そして、人間が住んでいるほとんどの場所にはネズミが生息しています。

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ただ、この地図からもわかるように、カナダのアルバータ州にはネズミが生息していません。

これは一体どうしてでしょうか?この記事はアルバータ州にネズミがいない理由について説明しています。

アルバータ州にだけいないネズミ

ネズミは住居の中に病原菌を含む糞をしたり、走り回ったりすることで、菌をまき散らします。また、食べ物が食中毒菌を持ったネズミに汚染されることもあります。

さらに鋭い歯でコードなどを噛み切ることによる電気災害や交通被害などをもおこします。

このように、ネズミは人類にとって最もしつこく有害な害獣のひとつです。

ただ、この人類とネズミとの何世紀にもわたる戦いにおいて、数少ない勝者がいます。それが、アルバータ州に住む400万人の人々です。

では、アルバータ州はどのようにしてネズミの侵入を避けることができたのでしょうか?

ネズミが世界中にいる理由

それにはまずはじめに、世界中のどこにでもネズミがいる理由を理解する必要があります。

家に住み着き、被害を与えるネズミはイエネズミと呼ばれ、クマネズミドブネズミハツカネズミの3種が知られています。これらのネズミはどれも北米原産ではありません。

例えば、クマネズミは東南アジアの森林地帯が原産ですが、人間の移動とともに新しい地域に侵入しました。特に、ヨーロッパの大航海時代には、船舶が主要な移動手段となり、一緒に運ばれました。

ドブネズミももともとは中央アジアが原産地とされていますが、18世紀初めにヨーロッパへ分布を拡大しています。

ハツカネズミに至っては農耕確立前の1万5000年前にはすでに人間が採集した種や穀物を目当てに人の近くにいたことが確認されています。

ネズミは驚くべき繁殖力で増加するため、新しい環境に数匹定着するだけで、駆除することはほぼ不可能になります。このため、特に産業革命後、ネズミは南極大陸、いくつかの北極圏の島々、そしてアルバータ州を除く地球の隅々にまで広がることができました。

このように、現代のネズミは人間の生活にほぼ完全に依存しており、人類とともに生息域を広げていったのです。

州境に迫るネズミ

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北米ではネズミは独立戦争の頃に初めて大陸の東海岸に足を踏み入れ、それ以来、徐々に侵入していきました。

そして、アルバータ州はネズミの侵入に直面した最後の地域でした。もともとアルバータ州にネズミがいなかったのは、その独特の地形による、天然の防御のためです。

アルバータ州の州境の3カ所は、大きな緩衝地帯に囲まれています。まず、西にはロッキー山脈があり、
ネズミはこの厳しい高地の条件に耐えることができませんでした。南にはモンタナ州の高原地帯がありますが、人口がまばらなため、ネズミが長い距離を進むのは困難でした。そして北には寒冷な気候があります。

そうすると、東のサスカチュワン州に隣接した部分が、ネズミが侵入してくる可能性のある唯一の場所となります。こうして、ネズミがこのアルバータ州の弱点をようやく見つけるまでには、1950年までかかりました。

この年の夏、アルバータ州の検査官はサスカチュワン州との州境近くの町、アルサスクの農場で、初めて数匹のネズミが目撃されたことを記録しています。

アルバータ州によるネズミ駆除の取り組み

州政府はこの時すでに北米で唯一のネズミのいない地域を自称していたため、この事態に対し、迅速に行動しました。こうして、すぐにネズミは駆除されたのですが、農務省の調査で、この数匹のネズミは州境地帯に侵入した集団の先駆けに過ぎないことがわかりました。

ただ、ネズミはまだ主要な居住地には侵入していなかったため、アルバータ州は絶対に侵入させないことを誓ったのでした。

1954年に州政府が発行した小冊子『アルバータ州のネズミ駆除』には「ネズミの侵入がアルバータ州をおびやかしており、この戦いに勝つにはきちんと組織化して何をすべきかを知る必要がある」と記されています。

さらに、アルバータ州民に対し、「ネズミを阻止できなければ、農作物や食料貯蔵庫が破壊されるだけでなく、腺ペストの蔓延という差し迫った未来に直面することになるだろう」と警告しています。

この小冊子は州内のほとんどすべての公共の場で配布されていました。

この取り組みは、さながら他国の侵略から国を守る、国境警備隊のようでした。武装した男たちのチームが、サスカチュワン州との州ザカイ沿いに指定されたネズミ駆除区域の警備に動員される一方、後方では民間人がネズミの識別と駆除の訓練を受けていたのです。

集会では都市部と農村部の両方の市民に、ネズミが出た時のために毒殺、捕獲、ガスで殺す方法を教えていました。プロパガンダのポスターには、「殺せ」という文字とともに、凶暴なネズミの画像が掲載されていました。

このネズミとの戦いは任意ではありません。州の農業害虫法では、土地所有者が遭遇したネズミを直ちに駆除しないことは違法とされたのです。しかし、アルバータ州の住民は一丸となってネズミの駆除に取り掛かったため、この法律の施行はほとんど不要でした。

これまでのところ、アルバータ州へのネズミの侵入はごく小規模にとどまっておりこれは偉業といえます。

南大西洋の島、サウスジョージア島は2018年にネズミがいなくなったと宣言されましたが、10年間で300t以上の殺鼠剤を空輸する必要があり、1,700万ドルを費やしました。

それでも、サウスジョージア島は地球上で最も辺鄙な場所のひとつであり、ネズミが再び現れても簡単に駆除できるほうです。

しかし、アルバータ州はあらゆる方面からの新たなネズミの侵入を常に防がなければなりません。

アルバータ州がネズミのいない州を自称するときそれは州内に繁殖しているネズミがいないという事実を指します。

そのため、現在でも州境のパトロールが行われネズミの目撃情報を報告するホットラインもあります。

アルバータ州でネズミが現れると、何日もニュースで大きく取り上げられるほどです。

ネズミは今日でも、過去と同じくらい簡単に州中に広がる可能性があるため、問題は解決されていないとアルバータ州政府のWebサイトは警告しています。

アルバータ州ではペットのネズミも禁止

また、ネズミをペットとして飼うことも厳しく禁止されており、罰金は数千ドルに及び、飼育は動物園、大学、特定の研究施設で許可されるのみです。

カナダ・バンクーバーに住んでいた家族に、マチルダと言う名のネズミが飼われていました。ところがこの家族がアルバータ州に引越しすることになったことから、悲劇は始まります。

家族は5000ドル、約46万円の罰金を払うよりもマチルダの安楽死の方を選んだのです。

しかしながら、動物センターから助けの声が上がり、マチルダは無事にアルバータ州から送り返されました。

みなさんもアルバータ州に引っ越しする際は、絶対にネズミを持ち込まないように気を付けてください。

この記事はYouTubeの動画でも見ることができます。

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