タカアシガニは現生の節足動物では世界最大で、長い脚を持つ蜘蛛のような奇妙な姿をしたカニです。また、強力なハサミを持っており、人間が挟まれると非常に危険です。
この記事はタカアシガニについて説明しています。
タカアシガニの分類

タカアシガニは十脚目短尾下目クモガニ科タカアシガニ属に属するカニです。カニの中では系統的に古い種で生きた化石と呼ばれています。
タカアシガニ属に含まれるのは現生ではこの種のみですが、この属の化石が日本国内で2種、アメリカ合衆国ワシントン州に2種の計4種が報告されています。
タカアシガニの特徴

彼らの甲羅の表面は小さなスパイク状の突起で覆われ、脚には白のまだら模様が入ります。
複眼は甲羅の前方に並び、この複眼の間には棘が左右に突出しています。若い個体は甲羅に毛や棘があり、複眼の間の棘も長いのですが、成熟すると短くなり、あまり目立たなくなります。
成体のオスは非常に長い脚を持っており、大きなオスが脚を広げると、3.8mにも達します。また、甲羅の幅が40cmに成長し、体重は最大19kgになります。これは全ての節足動物種の中でアメリカロブスターに次ぐ重さです。
タカアシガニの生息域
タカアシガニは日本近海に生息する海棲ガニの一種で、ジャパニーズ・スパイダー・クラブ(Japanese spider crab)と呼ばれています。
その生息域は岩手県沖から九州までの太平洋岸や東シナ海です。また、これまで日本近海の固有種と言われていましたが、1989年に台湾の蘇澳(スーアオ・すおう)沖でも個体群が見つかっています。
タカアシガニは水深150~600mほどの深海砂泥底に生息し、特に水深200~300mに多く見られます。深海では水温が低く、タカアシガニは6~16℃の温度で生存できますが、通常は10から13℃くらいを好みます。
タカアシガニの生態

彼らは海底の穴に好んで生息し、雑食性で貝などの動物性のものと海底の藻類などの植物性のものを両方食べ、動物の死骸を食べる腐肉食者でもあります。
貝などを食べる時ははさみで潰し割って食べます。タカアシガニのはさみの内側には球状の突起が多数並んでおり、くるみ割り器のように固いものを潰して割れる構造になっています。このハサミは非常に強力で、人間が挟まれると重症を負うほどです。
ただ、強力な爪と恐ろしい外見とは裏腹に、タカアシガニは穏やかな性格をしていると言われています。
彼らはタコなどの大型の捕食者から身を守るための硬い甲羅を持っていますが、カモフラージュも使用しており、でこぼこした甲羅は岩だらけの海底に溶け込みます。
さらに、海綿や他の動物を使って自らの甲羅を飾ります。彼らはハサミでそれらの物体を拾い上げると、一度口に持ってきて、向きと形を整えます。そして分泌物を出して甲羅に付着させていくのです。
タカアシガニの繁殖

卵が孵化して小さなプランクトン幼生になるまで、タカアシガニのメスは腹部に卵を付着させて運びます。
そして推進50m程度の浅いところまで移動して放卵します。このとき、彼らはシーズンごとに最大50万個の卵を産むことができます。
卵は平均して10日で孵化し、成体になるまでにプレゾエア期と3つの主要な幼生期の4段階を経ます。
最初の段階であるプレゾエア期は、ほんの15分ほどの間ですぐにゾエア期に入るために脱皮します。この段階では小さくて透明な体で、親とは大きく異なった見た目をしています。
そして2つのゾエア期を経て、次の段階、メガロパ期に入ります。
ゾエア期は七から18日間続き、メガロパ期は25~45日間続きます。これらの各段階の生存率と成長の速さは温度に大きく影響を受け、最適な温度は15~18℃、生存可能な温度は11~20℃です。
タカアシガニの幼生期は海流に乗って漂流するプランクトン生活を送るので、海面近くが主な生息域となります。そのため、彼らは1月~3月の水温の低い時期に孵化します。
タカアシガニの生存率は低く、最適な温度下であったとしても、最初のゾエア期では生存率が70%ですが、2番目のゾエア期とメガロパ期の段階では生存率が30%と大幅に低下します。
また、タカアシガニは脱皮する時に100分ほどもかかり、その間は機動性を失うため、非常に危険に晒されることとなります。
彼らの飼育下での平均寿命は5年で、野生での最高寿命は100年以上と推定されていますが、詳しいことはまだよくわかっていません。
タカアシガニの利用

タカアシガニは研究用や装飾用の剥製、さらには魔除けにもされてきました。性質は大人しく、また飼育のしやすさ、個体の補充しやすさ等から、水族館などでも飼育されています。
ただ、食材としての利用は産地以外では評価が低くなります。これは水揚げして放置すると身が溶けていき、液体化してしまうため、扱いが難しいからです。味も水っぽく大味で、大正初期の頃から底引き網漁で混獲されていましたが、見向きもされていませんでした。
また、メスはおいしいという話もありますが、巨体の割にはあまり肉が多くありません。
しかし、1960年に現在の沼津市戸田地区に当たると、戸田村の地元旅館主人がタカアシガニ料理を始め、今日では地元の名物料理のひとつとなっています。これらは塩ゆでや蒸し蟹などとして食べられています。
その他、各地でも珍味とされ、タカアシガニの漁獲が行なわれています。
タカアシガニの保護活動
ただし、乱獲により個体数が減少しており、1976年には合計24.7tが漁獲されていましたが、1985年にはわずか3.2tにまで減少しています。そのため、漁師はより深い海域を探索することを余儀なくされています。
乱獲がこの種の保存に害を及ぼすのを防ぐ為、現在、保護活動が実施されています。
彼らの個体数を回復させる主な方法のひとつに、人工的に養殖された稚ガニを漁業で補充することが挙げられます。特に漁が盛んな駿河湾では、タカアシガニを観光の名物にしていますが、種苗放流など資源保護も行っています。
さらに日本では、漁師が1月~4月までに、浅瀬で漁獲されやすい典型的な繁殖期にタカアシガニを捕獲することを禁止する法律が制定されています。この保護方法は、自然での個体数を増やし続け、タカアシガニがライフサイクルの初期段階を通過することができることを目的としています。
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