都市に棲み着いたキツネが急速に進化し家畜の特徴を持ち始めている

生物

ロンドンを代表とするイギリスの都市部では多くのキツネが棲み着いています。この都市に棲むキツネは田舎に棲むキツネと比べて明らかに異なる特徴があることが新たな研究でわかりました。彼らは家畜が持つ特徴を持ち始めたのです。この記事は都市に棲むキツネに起こった変化について説明しています。

都市部で増えるキツネたち

これまで、イギリスの都市部では野生のキツネが問題となっていました。都市部に棲みついたキツネはアーバンフォックスと呼ばれ生ごみを漁り、食い散らかします。また、民家の庭先に入り込んで
花壇の花などを踏み荒らしてしまうということも多く起きています。さらに、キツネには夜中に交尾をするときに大声で鳴くという習性もあり、騒音問題も起きています。もちろん、キツネがある種の病原菌を運んでいる問題もあります。

ロンドンでは個体数を管理する目的で1971年から1973年の間に大規模なキツネの駆除が行われました。しかし、ロンドン自然史博物館によると都市のキツネを駆除する試みは失敗に終わっています。それは、1匹のキツネが殺されると数日のうちに別のキツネがその縄張りを占領してしまうという「個体数の自己調整」が行われるためです。

キツネの頭蓋骨に起こった変化

ただし、この駆除の時に、多くのキツネの頭蓋骨が収集されており、これが今回の研究に役立ちました。スコットランド国立博物館にはキツネの頭蓋骨が約1,500個収蔵されています。これらの頭蓋骨にはそれぞれ生息していた場所を書いたラベルが丁寧に貼られています。

そして、研究者が田舎のキツネの頭蓋骨とロンドン市内のキツネの頭蓋骨を比較したところ、いくつかの重要な違いが見つかりました。

研究誌「英国王立協会紀要」で発表された結果によると都会のキツネは田舎のキツネよりも鼻先が短く
脳も小さくなっていることがわかったのです。なぜこのような変化が起きたのでしょう?

これは都会のキツネにとって、農村部のキツネとは優先するものの順位が異なるためです。農村部のキツネの長くて先細りの鼻は獲物を狩るための敏捷性において理想的ですが、都市部のキツネはそのようなスピードを必要としません。獲物を狩るよりもゴミの山を掘り返す方がエネルギーを有効活用できます。そして、より短くて強い鼻はゴミの包装を破ったり、残った骨を噛み砕いたりするのに適しています。

また、大きな脳は農村部のキツネにとって、小さくて走り回る獲物を狩るのに適していますが、餌が逃げなければ脳が小さくても特に問題がありません。むしろ、彼らの小さい頭蓋骨はゴミ箱に頭を突っ込んで漁るのに適しています。

家畜化症候群

これらの都市のキツネが持つ特徴は、19世紀にチャールズ・ダーウィンが家畜化症候群と名付けた野生動物が飼い慣らされ、最終的には家畜化される過程に伴う一連の特徴に似ています。家畜化症候群はダーウィンの著書「家畜化された動物と植物の変異」で始めて指摘され、家畜によって差はあるものの、なぜか一見無関係に思える多くの特徴が、異なる種に現れます。例えば具体的な特徴に、従順な態度、毛の色の変化、脳や歯のサイズの小型化、幼少期の行動の長期化、頭蓋骨の変化などが挙げられます。

家畜化とは対象とする生物が異なるものの、いずれもヒトが対象の生殖を管理し管理を強化していく過程をいいます。その過程においてヒトは自らに有益な特徴を多く具える個体を対象の群れの中から人為選択し続けるため、代を重ねることで遺伝子レベルでの好ましい変化が発現します。このように、家畜化は遺伝子が変化しているため、進化の一形態といえます。

自己家畜化

しかし、ここで本当に興味深いのは、都市部に棲むキツネは人間によって選択交配されているのではなく、自らその行程をおこなっているということです。

これは自己家畜化と呼ばれ、人間やボノボなども同じ進化を遂げた可能性があります。

関連動画:ボノボの自己家畜化とは何か?

この自己家畜化はキツネが人間の近くに住むことを決めた結果起こりました。しかし、研究者らは都会のキツネは絶対にペットではないと強調しています。これらの違いはイヌやネコが人間との交友関係を築くまでの初期の道のりに類似しています。

オオカミのうちのあるものが残飯をあさるため、人の宿営地に近づくようになり、やがてその中からイヌの祖先となるものが現れたと考えられています。また、ネコは恐らく、人間の密集生活で出るごみに集まるネズミなどの害獣を捕食するために人間に近づいたとされています。

実際、キツネは古代に一度家畜化されていたことがわかっています。この古代のキツネも、現代の都市のキツネと同様に、もともとは人間の捨てたゴミを漁っていたのが、人間に近づくきっかけだったのかも知れません。

キツネの家畜化実験

また、都市部のキツネの頭蓋骨の変化は、ロシアにおけるキツネの家畜化に関する長期にわたる研究とも一致しています。この研究は1960年代に始まり、何世代にもわたって最も攻撃性が低く、最も人間に従順なキツネだけを飼育した結果、キツネは巻き尾、たれ耳、短い鼻、脳の縮小、吠え声などの特徴を持つようになりました。

関連動画:キツネの家畜化実験

そのため、今回の研究に関していえばロシアの実験で判明したことと非常に一致する自然実験だといえます。都市のキツネはイヌやネコのような身近な動物ほど家畜化されていませんが、人間が多い都市のような環境では動物が家畜化の進化の道をたどるのに十分であることが研究で示されたのです。

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