ムベンガはアフリカに生息する鋭い歯を持つ恐ろしい魚で、非常に大型になる為、ワニをも捕食することがあるといわれています。
ムベンガとは
ムベンガはカラシン目アレステス科ヒドロキヌス属に分類されます。学名はHydrocynus goliath(ヒドロキヌス・ゴリアテ)で「ゴリアテ」は旧約聖書の大男の名に由来します。そのため、通称はゴライアス・タイガーフィッシュと呼ばれています。
生息地
彼らはサハラ以南のアフリカのコンゴ川、ルアラバ川、ウペンバ湖、タンガニーカ湖のコンゴ川水系で見られます。
大きさ
この巨大な捕食者はテトラやピラニアを含むカラシン目の中でも最大のもののひとつで、平均の体長は1.5m、体重は50kgまで成長します。さらに記録されている最大の個体は70kgもあったといわれています。
ムベンガの恐ろしい歯
このピラニアの4倍の大きさにもなるムベンガの口には恐竜を彷彿とさせる短剣のように鋭いギザギザの歯が何本も生えています。この歯は上顎には12~20本、下顎には8~14本あり、最大32本になります。
顎を閉じると歯がかみ合い、顎からわずかに外側に突き出すため、恐ろしい見た目となります。生物学者でテレビ司会者でもあるジェレミー・ウェード氏によると、この円錐型の歯は最大2.5cmまで伸びると言われています。これはホホジロザメのものと同じくらいの長さです。
この歯は非常に頑丈で、鋼線をも切断することが知られています。
また、交換が可能で、抜けた歯は5日以内に生え変わることが観察されています。
体色
体色はオリーブブラウンから淡いグレーで背鰭は黒、その他のヒレは赤またはオレンジ色です。タイガーフィッシュという名前はその凶暴な性質だけでなく、この生き物の側面全体に見られる黒い縞模様にちなんで付けられています。この縞模様は非常に明るい場合もあれば暗い場合もあり、生息地の水中に射す、まだらな光の中で効果的なカモフラージュとして機能しています。
生息域
ムベンガは充分に酸素を含んだ暖かくて流れの速い淡水に依存しており、彼らの生息地は大きな川や開けた湖に限定されています。そのため彼らは源流や湿地には見られません。これはより広範囲の条件に耐えることができる他の多くの種とは対照的です。
ムベンガの捕食方法
ムベンガは日和見的な肉食動物で、ナマズ、コイ、シクリッド、ハゼなど自分よりも弱いさまざまな魚種を捕食します。
彼らは同じカラシン目でより小型のピラニアのように群れや集団で狩りをするのではなく、単独で狩りをします。ムベンガは縄張り意識を示し、侵入者から好みの狩場を守りますが、これは安定した食料供給と繁殖の成功を保証するのに役立ちます。
彼らは流れの速い川を好み、このような生息地は獲物が豊富で、中流の穏やかな渦の岩場、流木などの近くに戦略的に潜み、獲物を待ち伏せします。
彼らは鋭い視力を持っており、濁った川の環境でも獲物を見つけることができます。そしてターゲットに気づくと追いかけます。
ムベンガの筋肉質な体は長くて薄く、流線型で魚雷のような形をしています。背びれは高く、胸びれも比較的大きく、尾びれは二股に分かれており、かなり後ろに伸びて機動性に優れています。この特徴により、彼らの体は水を簡単に斬り裂くことができ、獲物を追い詰めるのに必要な速度が得られます。ムベンガは最も乱流した水中でも獲物を捕まえることができるのです。
彼らは他の魚よりも口を大きく開くことができ、口を開く歯はさらに前方を向くようになっていて、肉の塊に噛みつくことができます。彼らの鋭い歯は体重30kgのナマズを一口で真っ二つにすることができます。この歯は掴んだり、引き裂いたりするのに適しているため、効率的に獲物を捕まえて食べることができます。
また、ムベンガは一度噛み付いたら離さない習性を持つとも言われています。
ただし、彼らは咀嚼するために歯を使いません。ムベンガは食べやすい大きさに獲物をバラバラに引き裂くと、丸ごと飲み込みます。そのため、体長の最大40%の大きさの魚を捕食する事が出来ます。
彼らは魚だけではなく、水面に近づきすぎた鳥や小型の哺乳類さえも捕食することが知られています。
そしてムベンガは生き残るために他の大きな魚や動物から獲物を奪い取ることがあり、食糧が不足している場合には共食いもします。
さらに、ワニのような大きな動物を攻撃して食べることさえあります。
ムベンガによる事故
そしてムベンガはアフリカで人間を襲った記録がある唯一の淡水魚です。
この魚と人間が接触する機会は少ないため、人間が襲われることはまれですが、コンゴの原住民がこの魚に噛まれたという報告が何件かあり、少数ながら死亡例も報告されています。
川で漁をしていた30代の男性が網を引き上げようとした時、何者かに川に引きずり込まれてしまいました。川が血の色に染まり、仲間が慌てて男性を引き上げると、彼の腕には2mもの巨大なムベンガが食いついていたといいます。一緒に漁をしていた仲間は男性がワニに襲われたと思ったそうです。
また、漁師がムベンガに噛まれて指を失ったことや、小さな子どもたちが水中で襲われたとの報告もあります。
このようにアフリカでは人喰いムベンガに関する報告が寄せられていますが、実際に人間を殺すことができるという明確な証拠はありません。
繁殖
ムベンガは水温やエサの入手可能性などの要因に応じて、季節ごとに大規模な移動を行うことが知られています。
また、メスは繁殖のために一斉に移動します。メスは産卵場所として川岸や湖岸を選び、親魚は子供の世話をしないので、卵を外敵から隠すために水中の植物の中に産み付けます。卵は何千個にもなり、時には最大75万個の卵を産むことがあります。
ムベンガは生まれた時から肉食性で、赤ちゃんは動物プランクトンを食べます。彼らは成長が遅く、幼魚は平均して年間10cmしか成長しません。したがって、彼らが完全な大きさに達するまでには最大10年かかる可能性があります。
寿命
野生下での平均寿命は10年前後で、飼育下では10~15年です。
天敵
ムベンガはその大きさと凶暴さのため天敵はほとんどいません。ただし、ナイルワニは成熟したムベンガの唯一知られている捕食者です。
ムベンガの漁獲
また、食糧として広く珍重されているため、人間によって漁獲されることもしばしばあります。
ムベンガは珍しい生き物であり、この魚に関する科学的知識は不足しています。
しかしアフリカでは長い間、神話や伝説に登場してきました。彼らは魚の中で最も獰猛であると恐れられ、スワヒリ語の方言でムベンガとは「危険な魚」を意味します。また、ムベンガは悪霊であると信じられており、旅のはじめにムベンガを見つけるのは非常に不吉だとされています。
ただし、捕まえることができれば食糧として珍重されます。ムベンガの捕獲に成功すれば、特にアフリカの田舎では多くのお腹を空かせた人々に食料を与えることができます。
ムベンガの味
ムベンガの味はティラピアに似ていると言われています。ティラピアは淡水魚でクロダイやマダイに似た味わいを持っており、淡泊で肉厚であり、洋風の料理にも合うと言われています。
ムベンガはフライにしたり、グリルにしたりすることができます。
ゲームフィッシング
そんな彼らは現在、世界最大の淡水ゲームフィッシュとされています。ムベンガはその大きさと恐ろしい評判のため、多くの釣り人を魅了してきました。彼らの恐るべき歯はその機能的な重要性を超えて神秘性すら与え、自然の脅威に魅了された人々の想像力を掻き立て来たのです。
ムベンガはその強力なアゴと素早い動きに立ち向かう勇気のある人にとって人気の獲物となっています。
ただし、種の保全のためにキャッチアンドリリースが推奨されています。
ムベンガの飼育
さらに鑑賞漁としても人気で、水族館でも飼育されています。テネシー水族館やオレゴンコースト水族館などには生きた個体があり、スミソニアン博物館では保存された化石を見ることができます。
コレクターたちの間でも非常に人気がありますが、飼育するのは非常に難しいため、初心者にはお勧めできません。
体が大きいことと活発に泳ぐ習性のため、水槽のサイズは最低でも2000リットルが必要です。それに加え、同じ水槽で複数を飼育したい場合は、各魚に対して少なくともさらに2000リットルを追加する必要があります。
餌は生きた魚や冷凍魚を食べ、水槽が汚れやすいため、高性能フィルターを使用する必要があります。
保全
ムベンガはその畏怖の念を抱かせる特徴にもかかわらず、生息地の悪化、ダムの建設など数多くの課題に直面しています。彼らの肉食性は小型魚の個体数を制御することで、生息域の生態学的バランスを維持するために不可欠です。ムベンガはコンゴ川流域の水生生物の多様性の微妙な均衡を維持する上で重要で、そのため保護の取り組みが必要とされています。
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