タッサーシルクは豪華で少し素朴な魅力を備えた美しい生地です。しかもこのシルクはただ美しいだけでなく、「非暴力の絹」とも呼ばれ、近年のファッション業界において注目度が高まっています。
この記事はタッサーシルクが「非暴力の絹」と呼ばれる理由や、タッサーシルクとはどういった性質で、どのような使用に向いているのかなどを紹介します。
タッサーシルクを生み出すタサール蚕
このタッサーシルクを生み出しているのがタサール蚕で、生物学的にはAntheraea paphiaもしくはAntheraea mylittaと呼ばれます。タサール蚕はヤママユ属に属し、日本で飼育されているカイコ(Bombyx mori)とは種類が異なります。
タッサーシルクはビハール州、ジャールカンド州、オリッサ州、チャッティースガル州、西ベンガル州など主にインド東部で生産されていますが、その起源についてはほとんどわかっていません。
タサール蚕は日本の蚕のように、小さな農場や過度に管理された環境に閉じ込められているのではなく、野生の木の葉を食べて育ちます。そのため、「野蚕」や「ワイルドシルク」とも呼ばれています。
タサール蚕についてはYouTubeの動画でも見ることができます。
タサール蚕の農家
農家はタサール蚕の卵を集めて新鮮な葉の上に置きます。そして、幼虫が孵化すると葉を食べて急速に成長し始めます。タサール蚕はたくさんの餌を必要とするので、農家は幼虫が食べ続けられるようにタイムリーに木から木へとさなければなりません。タサール蚕は主にインドの森林が原産で豊富に生息するアルジュナの木やサラソウジュの木などを食べます。
タサール蚕の天敵は鳥です。そのため、農家は伝統的に鳥が幼虫を食べないようにスリングショットで撃って追い払います。
タサール蚕の農家は代々タッサーシルクを栽培し、その知識を伝承してきました。
非暴力の絹
タサール蚕の繭は収穫されると紐につけられ、天井に吊るされます。次に繭は煮沸されるため、飼育されている蚕はここで死んでしまうのですが、タサール蚕の場合はそうではありません。
ここがタッサーシルクの面白いところです。
タッサーシルクにはピュアタッサーとタッサーギカの2種類があります。ピュアタッサーは損傷のない繭を使用して作られますが、これは幼虫が繭の中ですでに死んでいることを意味します。一方、タッサーギカは蛾が繭に穴を開けて飛び立った後のものを使います。
したがって蛾は無傷で、交尾してさらに卵を産む子孫を残すことができます。こうして農家は次の世代のタッサーシルクを収穫することができるのです。
これがタッサーシルクが「非暴力の絹」と呼ばれる理由です。
さらに、タサール蚕が餌とする木々も、傷つけられたり伐採されたりすることはありません。
このようにタッサーシルクはファッション業界において、倫理的で環境に優しいことから、デザイナーやテキスタイル愛好家から新たな関心が寄せられています。
タッサーシルクの生産過程
- 煮沸ー煮沸は絹を結束する役割のあるセリシンと呼ばれるタンパク質を柔らかくするために行われ、そのためこの工程は「脱ガム」とも呼ばれます。これにより、糸が簡単に解けます。また、繭が最適に煮沸されていない場合、シルク製造の後の段階で問題が発生する可能性があるため、この工程は非常に重要です。
- 繰り糸ー次は繰り糸の段階で、茹でた繭から絹繊維を丁寧に取り出します。繰り糸はこれらの繊維をひも状にする作業で、家族の女性メンバーによってのみ行われます。伝統的にこの作業は太ももを使用して行われていましたが、最近、太ももの上にいたの材料おくことに置き換えられました。繰り糸のプロセスには忍耐とスキル、そして破損を防ぐための繊細な手つきが必要です。
- 乾燥ー巻き上げられた糸は次に直射日光の下で乾燥させられます。これは次の段階までに水分を完全に無くさなければならないからです。
- 糸車ーこうして糸車の段階へと移ります。タッサーシルクの紡績機はチャルカとも呼ばれ、糸を引っ張ってねじることで強く均一なものに変えることができます。これにより、耐久性が増し、強度が向上します。このとき、職人は1本の糸が終わったり、破損したりするたびに作業を止めて糸をつなぎ合わせていく必要があります。
- 機織りーそして機織りの段階です。機織りは伝統的な手織り機を使用することが多く、これには熟練した職人が必要です。近年、織機ビジネスは衰退しており、それを学ぼうとする人は少なくなっています。手織り機の使用は体力と集中力を要するため、簡単な仕事ではありません。機械化された織機もありますが、手作りのものの方が生地に異なる品質と感触を提供するため、より好まれます。
- 装飾ー次は装飾段階で、タッサーシルクは様々な衣服に使用されますが、サリーが最も人気です。タッサーシルクは色をよく吸収する性質があり、要件に応じてそれぞれの生地が天然色または合成色を使用して染色されます。特にサリーの装飾は一枚一枚手描きで行われ、そのように描かれたサリーは市場で最も需要があるとされます。通常、鳥、花などの自然がモチーフとされ、天然染料を使用して作られています。これらのデザインはシンプルに見えるかもしれませんが、手描きの作業には創造性が求められます。
タッサーシルクの特徴
こうして出来上がったタッサーシルクは飼育されているカイコが作る絹とは色が異なり、やや粗い生地で強度があり、触るとザラザラとした質感があります。また、自然な金色の光沢を放ち、素朴な色調を提供します。さらに通気性にも優れているため、湿気の多い季節にも使用できます。このような温度調節機能により、冬は暖かく夏は涼しく過ごせます。タッサーシルクは一年中活用できる実用性の高い生地なのです。
タッサーシルクのこれらか
インドのシルク研究所は中央政府機関の管轄下にあり、様々な施設を提供するなど、絹産業を繁栄させ続けるために新しい人材を育成することに熱心です。
現在、タッサーシルクは農村部や部族コミュニティの雇用源となっており、養蚕と絹の生産に携わる人は約35万人います。タッサーシルクの生産を継続することは、重要な伝統と職人技を守るとともに、ファッション業界において倫理的で環境にやさしい記事を提供しているのです。
これまで見てきたことからタッサーシルクのメリットとデメリットは以下のようなものになります。
タッサーシルクのメリット
- 耐久性 – 丈夫な質感で、引っかかったり裂けたりしにくい
- 快適性 – タッサーシルクは通気性がよく、温暖な気候に適している
- 倫理的な生産 – 機会に恵まれない部族コミュニティをサポートしてる
- 環境に優しい – 集約的な農業を行わない自然林から作られている
- 汚れにくい – 表面が凹凸になっているため、汚れが目立たない
これらの理由から、世界中の職人がタッサーシルクを使用しています。もちろん、この希少な生地の製造にはコストがかかります。
タッサーシルクのデメリット
- 高価ー希少で手作りのため生産コストがかかる
- 変色しやすいー紫外線により変色しやすい
タッサーシルクが向いている利用方法
タッサーシルクは伝統的な巻き取りと織りにより、硬くて不均一な質感があります。その質感により、サリーやフォーマルなインドの衣装、耐久性が重要な室内装飾品やカーテン、繊細なブラウスよりもジャケットなどのアウター、スカーフやネクタイなどのアクセサリーなどに適しています。
タッサーシルクは日本で手に入るか?
タッサーシルクは日本ではあまりなじみがありませんが、ネットなどでは買えるようです。興味を持たれた方はその質感を試してみてはいかがでしょうか。
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