サメを丸呑みする巨大魚イタヤラとは?最大サイズや人を食べるかなども

生物

イタヤラは大西洋最大のハタ科の魚で、1.2mのサメを丸呑みにしてしまうことがあります。この魚は一体どういった生物なのでしょうか。分布や生態、人を食べることもあるのかなどを説明していきます。

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イタヤラはスズキ目ハタ科アカハタ属に分類される海水魚であり、硬骨魚の中で最大の種のつひとです。彼らの近縁種に太平洋に生息するタマカイがいます。

大きさ

イタヤラのオスはメスよりも大きく育ち、体長2.5m、体重363kgまで成長することがあります。この巨体のため、英語では旧約聖書に登場する巨人の名前からとってアトランティック・ゴライアス・グルーパーと呼ばれています。

分布

イタヤラはフロリダ北東部から南はメキシコ湾、カリブ海全域、南アメリカに沿ってブラジルまでの西大西洋で見られます。また、東大西洋ではセネガルからカビンダまでのアフリカに分布しています。そして東太平洋にも生息しており、メキシコからペルーまで見られます。

特徴

イタヤラの体色は茶色がかった黄色から灰色、緑がかったものまであり、頭、体、ひれには小さな黒い点があります。一方、幼魚は明るい黄褐色で、きれいな斑点があります。

彼らは細長い体に幅広で平らな頭と小さな目を持っており、下顎には3列から5列の歯がありますが、全部に歯はありません。そして、胸びれや尾びれは丸くなります。

生息域

成魚は通常、岩礁、難破船、サンゴ礁、石油プラットフォームなどの温かい浅瀬を好み、水深1~100mの範囲で観察されています。彼らはサンゴ礁でも見られますが、岩礁の方がより多く生息しています。

一方、幼魚は主にマングローブやその周辺の潮の流れの速い小川などに生息しています。マングローブはイタヤラの重要な生育場所として機能し、健康で持続的なイタヤラの個体群を育成する適切な水条件となっているのです。イタヤラの幼魚はこのマングローブに5~6年間とどまり、その後、体長約1mになると、より深い沖合の珊瑚礁や岩礁の生息地に向けて出発します。

なんでも丸呑みにするイタヤラ

Clinton & Charles Robertson from Del Rio, Texas & College Station, TX, USACC BY 2.0, via Wikimedia Commons

イタヤラは多くのハタと同様に待ち伏せ捕食者で、動きの遅い魚や甲殻類を捕食します。彼らはサンゴ礁の海にいる魚の中で最も凶暴なわけでも、最も泳ぎが速いわけでもありません。ただ、彼らはその大きな口で獲物を素早く効率的に飲み込むだけです。

イタヤラはかなり大きな魚、脊椎動物などを獲物とし、さらには小さなサメをも食べることさえあります。あるイタヤラが体長約1.2mのサメを飲み込んだことが観察されています。このサメは釣り針にかかり、もがいているところをよって来たイタヤラに食べられました。

イタヤラの歯は小さく後ろに反っており、これは捕まえた魚を口の中から逃がさないためのもので、その肉を切り裂くようにはできていません。そのため、基本的にはサメを食べないと言われています。ですが、彼らは日和見性捕食者のため、自分の口に収まりそうな手軽な獲物がいたら、それを狙うことがあります。

水族館で獲物の大きさを見誤り、それでもかまわず飲み込んでしまったイタヤラがいました。このイタヤラは魚の尾が口からはみ出したままで、頭の方が消化されて飲み込めるようになるまで、ずっとそのままで過ごしていたといいます。

イタヤラは人を食べるか?

イタヤラは人間の行動を学習記憶できるほど賢く、ダイバーを乗せた船が近づく音も理解しています。そのため、餌がもらえると思って近づいてきます。

通常サイズのイタヤラは捕食のために人間を攻撃することはありませんが、身を守るために攻撃することがあります。例えば、ダイバーの中には興奮しすぎてイタヤラを怒らせ、襲われたりする人もいます。

また、ダイバーの手を小魚だと勘違いして噛みつくことや、獲物を得るためにダイバーを攻撃することがあります。

2015年の9月、沈没船の横たわる海域で銛を使ってフエダイを獲っていたシェパードさんは、その獲物を横取りしようとした数匹のイタヤラに襲われました。彼らは体重100キロもある巨体のシェパードさんを乱暴に引きずり、6mかそこら、軽々と引き廻しました。しばらくの格闘のあと1匹のイタヤラが銛を完全に負けてしまいました。

このように力の強いイタヤラがいる場合、観察中はイタヤラに注意し、距離を保つ必要があります。万が一襲われたら、彼らは通常人間を食べることはないので、パニックにならないようにイタヤラから離れましょう。

ただ、イタヤラは大人を飲みこむことはできませんが、おそらく幼児サイズの人は飲み込むことができます。

1950年代、フロリダキーズで2人の子供が橋から海に飛び込みましたが、上がってきたのは1人だけでもう1人の子供はイタヤラに食べられたといわれています。ただし、これを証明できるものがないためただのうわさ話の可能性があります。

イタヤラの繁殖行動

ほとんどのハタはメスとして生まれ、時間が経つとオスに変わる雌性先熟です。しかし、イタヤラが雌性先熟であるかどうかは幅広い議論がなされており、更なる研究によって状況が変わる可能性があります。

オスはメスより早く成熟し、体長約115cm、年齢が4~6歳で性的に成熟します。一方、メスは体長約125cm、年齢6~8歳で成熟します。

イタヤラは集団で産卵することが知られています。6月から12月の満月の直後、少なくとも百ぴきを超えるグループがサンゴ礁、難破船など特定の場所に集まります。そのため、彼らはこの産卵場所に到達するために何キロも移動することがあります。

そしてメスは卵を放出し、オスはサンゴ礁の上の水中に精子を落とします。受精が起こると、卵は水流によって散らばりますが、ふ化後は水を漂い、25~26日の間に底生生活に変わります。

正確に特定することは困難ですが、イタヤラは一般に適切な条件下では50年以上生きることができると言われています。ただし、記録に残っている最高齢の個体は37歳で成長しきったイタヤラにはその大きな体のため認められる捕食者はあまりありません。ただし、例外があります。それがあなたたち人間です。

イタヤラの利用

イタヤラはその大きさのため、釣ると手柄話になるということで、ゲームフィッシングの世界では価値が高く、世界で最も狙われている魚のひとつとされています。

また、特にキューバなどのカリブ海の地域ではイタヤラが食べられています。イタヤラは暖かい水域に生息し、脂肪濃度が低いため、ほのかな甘味のような味わいがあります。一般的に生で食べても健康上のリスクはありません。ただし、筋肉が固いので、火を通してから食べるのが良いとされ、調理すると肉が柔らかくなり、さらに美味しくなります。また、成長して大きくなるほど肉が固くなるため小さい物の方が美味されています。

ただし、研究では食用は避けるべきとのデータが出ています。これはイタヤラの筋肉には危険なほど高レベルの水銀が含まれているからです。魚や海洋生物が食物連鎖の上位になるほど体内に存在する水銀濃度が高くなります。

個体数減少の危機

イタヤラは毎年特定の場所で同じ日数を産卵に費やすため、見つけるのが非常に簡単です。さらに、人間に対する恐怖心が全くないため、漁師の格好の標的となり容易に捕獲されます。

このように、イタヤラは乱獲のため個体数が減少しています。また、高齢の個体が保有する水銀濃度が高くなると、肝障害や死亡の原因となります。

さらに、開発などによるイタヤラの重要な生育場所であるマングローブ林の劣化は大きな脅威となっています。

そして、イタヤラの成長の遅さは漁業がある程度または完全に法的に保護されている場合であっても、個体数の回復を遅らせる一員となっています。科学者は破壊的な漁法によりイタヤラの数が少なくとも80%減少し、現在深刻な絶滅の危機に瀕していると考えています。

そのため、イタヤラは絶滅危惧種に分類されています。アメリカのカリブ海水域では、1993年以来、この種の漁獲は完全に禁止されています。

これにより生息数は戻りつつありますが、スポーツフィッシャーやチャーターボートの経営者から反対の声が出ています。彼らはイタヤラはスポーツフィッシングの対象になるフエダイや小型のハタなど、フロリダのサンゴ礁の資源を食べてしまい、激減させていると主張しています。イタヤラがボートの音を聞きつけて近寄り、せっかく釣った魚を奪ってしまうのだそうで。また、大型の魚を釣る機会が欲しいなどと主張し、イタヤラを絶滅危惧種のリストから外すべきだとしています。

このイタヤラの解禁に向けた議論の開始により、激しい論争が巻き起こりました。魚の個体数を数えることは容易ではなく、フロリダ州の近海にどれだけのイタヤラがいるのか確定することは困難です。それでも、多くの海洋科学者がここ数年、イタヤラの回復は停滞しており、解禁を正当化するには個体数がまったく足りないと考えています。

何十年にも渡ってイタヤラを研究してきた元フロリダ大学海洋生物学者のクリス・ケーニグ氏は「人々はイタヤラを処分しなければならないさまざまな理由をでっち上げている」と主張しています。イタヤラは在来種で何百万年もの間、自然環境の一部として人間よりもずっと長くここに存在していました。イタヤラはサンゴ礁の頂点捕食者として生態系の中で重要な役割を果たしています。

イタヤラなどの捕食者が多数いるサンゴ礁は捕食者のいないサンゴ礁よりも健全であり、この種はサンゴ礁の食物網の重要な部分を占めていると考えられています。彼らは食物連鎖の頂点に位置するため、それに比例して個体数は少なくなります。これらの頂点捕食者を取り除いてしまったら、生態系のバランスが崩れてしまいます。

また、イタヤラは侵略的外来種であるミノカサゴ対策の決め手になるかもしれないともいわれています。ミノカサゴは大西洋で大量に繁殖し、在来種の魚を脅かしていますが、この魚はイタヤラにとって大好物なのです。

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