交配によって絶滅動物を復活させる驚きの計画・クアッガ・プロジェクト

生物

現在、世界各地で絶滅した動物を復活させるという驚くべきプロジェクトが進行しています。多くの人が想像するのは、最新の遺伝子編集技術やクローン技術を駆使した方法でしょう。しかし、今回紹介するプロジェクトは、それらとは全く異なるアプローチを取っています。なんと、交配によって絶滅した動物を復活させようというのです。

一体どのようにして、この世からいなくなった動物を交配で復活させることができるのでしょうか?本記事は交配により絶滅したクアッガを100年ぶりに復活させる「クアッガ・プロジェクト」について詳しく説明しています。

クアッガとはどんな動物だったのか

独特な外見の特徴

クアッガは、体の前半分に茶色と白の縞模様があり、体の後ろ半分は馬のような茶色一色という、非常に独特な外見を持つ動物でした。そして胸部は白一色となっていました。この独特な縞模様にどのような意味があるのかは、現在でもよく分かっていません。

DNA解析の結果、クアッガはサバンナシマウマの亜種であることが判明しています。つまり、完全に別の種ではなく、シマウマの仲間だったのです。

名前の由来と鳴き声

「クアッガ」という名前は、その独特な鳴き声に由来しています。1785年の記録では、クアッガの鳴き声について「ロバとはかなり違っており、犬のような激しい吠え声に似ていた」と記述されています。現地の人々は、この「クアッ、クアッ」という鳴き声から「クアッガ」と名付けたのです。

生息地と生活様式

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クアッガの生息地は、南アフリカの草原地帯に限られていました。彼らは数十頭で群れを作って生活しており、比較的簡単に発見することができました。

興味深いことに、同じ地域にはバーチェルサバンナシマウマも生息していましたが、クアッガとは混じり合わず、それぞれ別の群れを形成していました。これは、後のクアッガ・プロジェクトにとって重要な手がかりとなります。

絶滅への道のり

入植者による狩猟

ErmellCC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

クアッガが絶滅に追い込まれた経緯は、人間の活動と密接に関係しています。オランダ人の入植者が南アフリカに定住してから、クアッガは狩猟の対象となり、瞬く間に絶滅の危機に追いやられてしまいました。

クアッガの肉は食糧として利用され、皮は革製品や衣服、袋などに加工されました。さらに、クアッガが家畜の食べる草を食べてしまうため、地元のアフリカ人もクアッガの狩猟を行うようになりました。

急速な個体数の減少

オランダ人が入植してからわずか30年ほど後の1850年前後には、クアッガの群れはほとんど見られなくなってしまいました。しかし、地元の人々はすべてのシマウマを「クアッガ」と呼んでいたため、この動物が危機的な状況にあることに気づきませんでした。

最後の個体の最期

そして遂に1883年、アムステルダムのアルティス動物園で飼育されていた最後の1頭が命を落としてしまいました。この最後の個体は16年間この動物園で過ごしていたメスのクアッガでした。

驚くべきことに、このクアッガが息を引き取っても、世間はおろか科学者たちの間でさえも問題にされませんでした。誰もこの1頭が最後の個体だと知らなかったからです。

絶滅の認知

ようやく1900年になって、クアッガが絶滅したということが世界的に知られるようになりました。彼らは二度と戻らない動物の一種となったのです。

クアッガ・プロジェクトの始まり

理論的基盤の確立

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しかし、100年以上経った今、クアッガを復活させようとする取り組みが始まっています。

1955年、ドイツの動物学者ルーツ・ヘックは、その著書の中で重要な示唆を行いました。「バーチェルサバンナシマウマの中で縞模様が薄くなった茶色っぽいもの同士を掛け合わせて、絶滅したクアッガに似た動物を生み出すことができる」というものです。

バーチェルサバンナシマウマは、サバンナシマウマの亜種で、サバンナシマウマは最も一般的に見られるシマウマのことです。亜種とは、何らかの原因で地理的に隔離され、その隔離された地域で生活していく上で、体つきや色が元とは異なった生物のことです。そして亜種間では交雑が可能なのです。

プロジェクトの発起人

この理論を受けて1971年、ドイツの博物学者ラインホルト・ラウは、ヨーロッパ中の博物館を回ってクアッガの標本を調べ、クアッガを復活させる試みを始めることに決めました。

ラウには「人類の愚かな過ちを正したい」という強い信念がありました。そうして彼は生物学者や国立公園にコンタクトを取り始めました。

初期の困難

しかし当時、クアッガはすでに絶滅しており、現存しているシマウマにはクアッガの遺伝子構成は存在しないと科学者たちの間では考えられていたため、誰も彼に協力的ではありませんでした。

それでもラウは、クアッガがバーチェルサバンナシマウマの亜種であると確信しており、復活の提案を諦めませんでした。

科学的証明の獲得

その後に遺伝子研究が進み、遂に1980年にクアッガのミトコンドリアDNAの分子研究により、実際にバーチェルサバンナシマウマの亜種であることが証明されました。

1984年以降、このDNA検査の結果が出版され、だんだんとクアッガの再生繁殖に対して前向きな姿勢が取られ始めるようになりました。

プロジェクトの実施

委員会の発足

そして遂に1986年3月、プロジェクトに賛同する重要な人たちが集まり、「クアッガプロジェクト委員会」が発足されました。

同年3月中には、ナミビアのエトーシャ国立公園に生息する19頭のシマウマが選ばれ、捕獲されました。同年4月、これらのシマウマは南アフリカの特別に作られた繁殖場に運ばれ、こうしてプロジェクトが本格的に始まりました。

最初の成果

Photograph by The Quagga Project, CC BY 4.0.CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

1988年12月9日には、このプロジェクトの最初の子馬が生まれました。これは歴史的な瞬間でした。

その後、さらに縞模様を減少させる確率を高めるために、追加のシマウマが加えられました。この時、クアッガに似た特徴の出なかった個体は、元の場所に放されています。

プロジェクトの拡大

1992年10月、飼料のコストを減らす目的のため、16頭のシマウマが十分な広さのある自然牧草地に移されました。これにより、より自然に近い環境での繁殖が可能になりました。

2006年、プロジェクトの創始者であるラインホルト・ラウが生涯を終えました。しかし、彼の信念はメンバーに受け継がれ、プロジェクトは継続されました。

現在の成果と展望

OggmusCC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

第5世代の誕生

そして2013年12月には、第5世代の子馬が誕生しました。これらの縞模様が薄い個体を、もともと絶滅したクアッガと区別するため、プロジェクトのメンバーたちはラインホルト・ラウの名にちなんで「ラウクアッガ」と呼ぶことにしています。

現在の個体数

2016年3月には116頭のラウクアッガがそれぞれ10箇所の施設でリストに掲載されています。この中で、特に縞模様が大きく減少した個体が6頭います。

将来の目標

今後、このプロジェクトは約50頭のシマウマの個体群を確保し、元の生息域に移すことを目標としています。これが実現すれば、100年以上前に絶滅したクアッガが、事実上野生に復活することになります。

プロジェクトへの批判と回答

科学的な批判

Bernard DUPONT from FRANCECC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

クアッガプロジェクトには、発足当初から科学者や環境活動家から「外見だけでは本当のクアッガとは言えない」などといった批判がありました。

確かに、遺伝的に完全に同じ動物を復活させているわけではないため、この批判は理解できるものです。

プロジェクトメンバーの見解

プロジェクトのメンバーであるエリック・ハリーは、これらの批判を受け入れた上で、「これは保護ではなく復元プロジェクトだ」と主張しています。

つまり、完全に同じ動物を復活させるのではなく、絶滅した動物に可能な限り近い動物を復元することで、生態系の一部を取り戻そうとしているのです。

生態系への貢献

また、クアッガを復活させることで、崩れた生態系を元に戻す目的もあります。クアッガがいた頃の南アフリカの草原地帯の生態系バランスを復元することで、より健全な自然環境を取り戻すことができると期待されています。

まとめ

遺伝子編集やクローン技術ではなく、選択的交配という比較的シンプルな方法で絶滅動物の復活を目指すこの取り組みは、生物学の新たな可能性を示しています。

完全に同じ動物ではないという批判もありますが、失われた生態系の一部を取り戻し、人類の過ちを少しでも償おうとするこの試みは、多くの人々に希望を与えています。

今後、ラウクアッガが野生に放たれ、かつてクアッガが駆け回った南アフリカの草原に再び蹄の音が響く日が来るかもしれません。それは、人類と自然の新たな関係を築く重要な一歩となることでしょう。

クアッガ・プロジェクトの成功は、他の絶滅動物の復活プロジェクトにも大きな影響を与える可能性があります。科学技術の進歩と人間の努力によって、失われた自然の一部を取り戻すことができるということを、このプロジェクトは世界に示しているのです。

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