サメより怖いゴマモンガラが危険すぎる

生物

熱帯や亜熱帯の海に棲息するカラフルな魚、ゴマモンガラは、ダイバーの間ではサメよりも怖いと言われ、海の生物の中でも特に警戒すべき存在として知られています。この魚はなぜダイバーから恐れられているのでしょうか?本記事はこの海の危険生物、ゴマモンガラについて詳しく解説しています。

ゴマモンガラの分類と分布

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ゴマモンガラは、フグ目モンガラカワハギ科に分類される魚類です。彼らは熱帯から亜熱帯にかけて広く分布し、ケニアやセーシェル諸島を含むアフリカの東海岸、インドネシア、フィリピン、パプアニューギニアなどの太平洋地域で見られます。日本においては、神奈川の三浦半島以南の太平洋側や琉球列島などに生息しています。ただし、ハワイには生息していません。

モンガラカワハギ科は約40種が記載されていますが、ゴマモンガラはその中でも最大の種で、体長約75cm、重さは10kgにまで成長します。たくましい体格を持つこの魚の英名は「タイタン・トリガーフィッシュ(Titan triggerfish)」で、ギリシャ・ローマ神話の巨人「タイタン」にちなんで、その巨大さから名付けられたものです。

特徴的な外見

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和名のゴマモンガラは、ゴマのような斑点模様に由来します。ただし、この黒い斑点は幼魚のときのみに見られ、成魚では斑点は消えて各鱗が黒く縁取られるようになります。そのため、かつては「ツマグロモンガラ」という名で呼ばれていました。日本における主要な生息地である沖縄の方言では「あかじきらなー」、「かーはじゃー」、「ゆたーふくるばー」などとも呼ばれています。

ゴマモンガラの体色は目を引く鮮やかな黄色をしていますが、これは珊瑚礁に溶け込むカモフラージュの役割を果たしています。また、口の周りには黒いヒゲのような模様があり、目の付け根が白いのが特徴です。

生息環境と行動

Hugues Evano (IFREMER, Délégation océan Indien (DOI), Département Ressources Biologiques et Environnement (RBE), F-97420 Le Port, France)CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

ゴマモンガラは深さ50m程度の珊瑚礁などに生息し、特に隠れ家を求めて縄張りを確立できる十分な裂け目のある場所を好みます。この魚は力強い胸鰭を持っているため、水中を自在にホバリングしたり、俊敏に泳いで複雑なサンゴ礁の間を移動したりすることができます。これにより、障害物や捕食者を避けるのに役立ちます。

ゴマモンガラは成魚になると単独で行動します。食性は雑食で、ウニ、貝類、軟体動物、甲殻類、チューブワームなどを食べます。この貪欲な捕食者は三角形の頭と鋭い歯、そして強力な顎を兼ね備えており、これを使って硬い殻を持った生物や珊瑚礁をかみ砕いて食べることができます。

彼らはまた、力強い胸鰭と鼻先を使って岩や珊瑚の塊をひっくり返し、隠れた獲物を見つけることもできます。さらに砂に水を吹き付けて、甲殻類などの隠れた餌を発見する技術も使うことが知られています。そのため、他の小型魚種はゴマモンガラが掘り起こした小さな生物を食べるため、その周辺によく集まります。

縄張り意識と攻撃性

ゴマモンガラは縄張り意識がとても強く、珊瑚礁に縄張りを持ち、敵と見なした相手を執拗に追いかける習性があります。繁殖期にはさらに攻撃的になります。

彼らの繁殖期は夏季で、日本では6月から8月に珊瑚礁近くの平らな砂地にオスが半径15mほどのすり鉢状の巣を作り、そこでメスが卵を産むように誘導します。その後、彼らは発育中の卵に新鮮な水流を送りながら、外敵からそれを守るのです。この時に近づく敵を早く発見することができるように、横向きに泳ぎます。

侵入者が現れるとまず、ヒレを直立させ、正面に向き合って威嚇します。そして突進や噛みつきなどの攻撃を仕掛けるのですが、自分の縄張りに侵入した他の魚がどんなに大きくても立ち向かっていきます。

ダイバーにとっての危険性

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ゴマモンガラはサンゴ礁などに生息するため、ダイバーや人間がスノーケリングやダイビングをしている時によく遭遇することとなります。そのため、誤ってこの巣に入ったダイバーが襲われ、怪我をしてしまう事故が発生しているのです。

ゴマモンガラの歯には毒はありませんが、硬い貝やサンゴを噛み砕くほど鋭いため、噛まれると重症を負うことがあります。この歯はダイバーに着用しているウェットスーツを噛みちぎるほどの破壊力を持っており、指を切られたり、耳たぶを噛まれたりした人までいると言われているほどです。

そのため、彼らの巣を見かけたら、それ以上近づかずに離れることをおすすめします。万が一、巣に入ってしまった場合、むやみにその場で逃げ回ったり、慌てて浮上したりしないようにしてください。彼らは侵入者が縄張りを出るまでは何度も攻撃を繰り返します。

また、彼らの縄張りは巣を中心として上向きの円錐状になっているので、上に行くほど範囲が広くなります。そのため、海底の近くを泳いで、決して浮上せず、すみやかに巣の外に出るようにしましょう。

食用としての価値

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このように人間にとっては危険な魚ですが、肉は赤身の筋肉質で食用になり、潜水漁や刺し網、延縄などで漁獲されています。モンガラカワハギ科の種類は多く、漁獲量は少ないものの、本種など大型種は一定の評価を得ている食用魚としての認知度があります。特に沖縄では一般的な食材として食卓に並ぶこともよくあります。

ただ、ゴマモンガラの鱗は固く、皮膚と一体化しているため、はぎにくく、下処理するのに手間がかかります。そのことから値段が安くなりますが、味は良いとされています。身は白身で、刺身にした場合、味は淡白でコリコリとした食感があるそうです。また、煮付けや味噌汁としても食べられます。味噌汁はカワハギなどに似た味わい深い出汁が出るため、ご飯によく合うと言われています。

ただし、個体によってはシガテラ毒を持つ可能性があります。シガテラ毒とは、熱帯や亜熱帯のサンゴ礁の周辺に生息する魚に含まれる毒素によって引き起こされる食中毒のことです。毒素の名前はシガトキシンやスカリトキシンなどで、海藻に付着する渦鞭毛藻が作り出します。この毒素は、小さな生物が食べ、さらに食物連鎖の頂点に立つ大きな魚が蓄積していきます。シガテラ毒による致死率は低いですが、神経系や消化器系に影響を与える症状を引き起こすため注意が必要です。

文化的・生態学的重要性

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ゴマモンガラはその独特な外見と水を守る性質から熱帯地域に住む多くの原住民にインスピレーションを与えており、崇拝され、地元の神話や伝説、大衆文化、民間伝承などによく登場しています。

また、ゴマモンガラはサンゴ礁の生態系のバランスを維持する上で重要な役割を果たしています。彼らは特定の餌となる種の個体数を制御し、栄養循環に寄与しているのです。

しかし、多くの海洋生物と同様に、生息地の劣化、汚染、乱獲、気候変動により、種の存続が脅かされています。そのため、保護団体や海洋公園などはこの種の保護に積極的に取り組んでいます。例えば、市民の意識の向上、持続可能な漁業の促進、海洋保護区の設立、責任ある観光の促進などが行われています。

ゴマモンガラは美しくも危険な海の生物です。その特徴や習性を理解し、適切な距離を保つことで、海中での安全な観察が可能になるでしょう。

この記事はYouTubeの動画でも見ることができます。

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