アメリカワニ(Crocodylus acutus)はアメリカではフロリダ州で唯一見られるクロコダイル科のワニですが、開発による生息地の破壊、皮を目的とした乱獲、害獣としての駆除などにより、その生息数は大きく減少しています。それにもかかわらず、このワニは意外な場所で繁栄していることが知られています。それは、自然の沼地や川ではなく、原子力発電所にある広大な人工水路です。
なぜアメリカワニはこのような場所に集まり、そしてどのように生息数を増やしているのでしょうか?この記事は絶滅危惧種のワニが原子力発電所で繁栄している理由について説明しています。
絶滅が危惧されているアメリカワニ

南フロリダは太陽が降り注ぐビーチ、ヤシの木が立ち並ぶ通り、しゃれたホテル、そしてアメリカワニの生息地として知られています。ナイルワニと近縁なこのワニは、フロリダの多くの爬虫類とは異り、外来種ではなくアメリカ合衆国在来の種で、そのほか、メキシコ南部、中央アメリカ、カリブ海、南アメリカ北部に生息しています。
アメリカワニは同じくアメリカに生息するアリゲーターに似ていますが、より大きく成長し、頭が細長く、口を閉じた際、上下の歯が互いに見えるなどの特徴を持つなど、いくつかの違いがあります。化石記録によると、クロコダイル科は恐竜の時代までさかのぼる、約8000万年前から存在し、その姿をほとんど変えることなく、長い歴史を生き延びてきました。
それなのに、1970年代にはアメリカワニの将来が明るいものではないと考えられる状況に直面してしまいます。アメリカワニはかつて南フロリダのマングローブや河口域でよく見られる種でしたが、乱獲と生息地の破壊により、州内の個体数は300匹未満にまで減少したのです。そのため、1975年にはフロリダのアメリカワニは絶滅危惧種に指定されています。
原子力発電所で繁栄するアメリカワニ

それがわずか2年後、予想外の出来事が起こりました。マイアミの約40キロメートル南に位置する、ターキーポイント原子力発電所の従業員が、人工冷却のための水路でワニの巣を発見したのです。このような水路は発電所で使用される水の温度を制御し、下げるために作られています。
発電所を運営するフロリダ電力会社(Florida Power & Light Company)はこの珍しい生息地に定着したワニを観察し、保護するプログラムを立ち上げました。それ以来、発電所に生息するワニの個体数は急増しています。300匹にも満たなかったワニは、現在、2,000匹にまで増え、そのうちの25%がターキーポイントを故郷としています。その結果、2007年にはアメリカワニの保護状況が絶滅危惧種から危急種へと改善され、フロリダ電力会社は個体数の増加に大きく貢献したと評価されています。
繁栄の秘密

ターキーポイントの冷却用水路にはアメリカワニだけでなく、ヘビ、カワウソ、アライグマ、マナティーなどの動物も棲み着いています。この場所がワニやほかの動物にとって豊かな生息地となっている理由はいくつかあります。
まず、ターキーポイント原子力発電所は比較的孤立した場所にあるため、動物たちは人間の干渉を受けずに生活できます。この場所はビスケーン国立公園とエバーグレーズ国立公園の近くに位置しているため、野生動物のほとんどすべてがこれらの地域から発電所に自由に行き来することができるのです。
さらに、この水路は沿岸開発と海面上昇のため、アメリカワニにとって重要な繁殖地が破壊されている昨今、理想的な巣作りの場所を提供しています。この種は湖沼や川に隣接する水はけの良い土壌に卵を産む習性がありますが、発電所の水路は、洪水のリスクを避けながらも、簡単に水へアクセスできる最適な環境なのです。そして、水路の建設時に、意図せずして隆起した土地、つまり土手が作られたため、アメリカワニが喜んで卵を産むことができます。
また、冷却用水路には魚や鳥などの餌となる生物が豊富に存在しワニが必要とする食料供給が十分にあります。これらのことから、水路の条件が彼らにとって住みやすい環境を提供しているのです。
それに加え、ターキーポイントでは科学者が孵化したばかりのワニの赤ちゃんを手厚く保護しています。メスのアメリカワニは4月下旬または5月上旬に、大きさや年齢によって異なりますが、平均して30から50個の卵を巣に産み付けます。そして、卵が孵化するまで約3か月間、メスは捕食者から巣を見守るのです。7月から8月になり、孵化した子が出てくると、母親が口にすくい上げて水域に運びます。しかしその後、赤ちゃんは通常、単独で行動し、魚、鳥、カニなどに捕食されるためほとんどが成体まで成長できません。
そのため、ワニの赤ちゃんは専門家によってマイクロチップでタグ付けされチームが追跡できるようにします。そして、孵化したばかりのワニは、生存の可能性を高めるために、電力会社が作った池に戻されるか、避難所に移されるのです。1978年に監視プログラムが設立されて以来、専門家は約7,000匹の赤ちゃんにタグ付けしています。
課題と未来

しかし、ターキーポイントは爬虫類のユートピアのように見えるかもしれませんが、課題も存在します。2016年、マイアミ・ヘラルド紙のジェニー・スタレトビッチは、ビスケーン湾で高濃度のトリチウムが発見されたことに関し、ターキーポイントの水路からビスケーン国立公園に漏れているのではないかと報じました。この報道では、人間や野生動物への危険性については触れられていませんが、その時点でタラハシーの裁判官は発電所に水路の浄化を命じました。現在、浄化作業は継続中ですが、発電所の反対派をなだめるには至っていません。
また、ターキーポイントの環境はワニの巣作りには適しているものの、状況はすぐに変化する可能性があります。2015年、気温上昇により水路の塩分濃度が上昇した結果、専門家はワニの巣が著しく減少したと考えています。
それでも、ターキーポイントのこのようなプロジェクトは、単なる生物学的研究にとどまらず、自然保護と工業の調和を示す重要な指標といえます。この場所では科学者、エンジニア、そして生物学者が協力して、地域全体の生態系を守るための活動を継続的におこなっています。そのため、この取り組みは自然環境を尊重しつつ、持続可能な未来を築くためのモデルとして世界的な注目を集めています。
このような成功は、将来的に他の生息地やシュにも適用可能な戦略の開発に役立つでしょう。絶滅危惧種を保護し、その個体数を回復させることは、多くの困難を伴う挑戦ですが、このプロジェクトはその可能性を示す最良の例です。
この記事はYouTubeの動画でも見ることができます。
参考:https://www.smithsonianmag.com/smart-news/florida-crocs-are-thriving-outside-nuclear-power-plant-180972712/
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