世界一高い木「レッドウッド国立公園のハイペリオン」を実際に見ることができない理由

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アメリカ合衆国・北カリフォルニアのレッドウッド国立公園にハイペリオンという愛称を持つ、巨大なコーストレッドウッドの木が立っています。この巨木は高さが116.07メートルに達し、これは、世界で最も高い木だと考えられています。

このような巨大な木を実際に訪れて見ることは、人生にとってかけがえのない体験になるかもしれません。しかし残念ながら、それは現在不可能となっています。

それではなぜハイペリオンを見ることができないのでしょうか?

この記事は世界一高い木を見ることができない理由について説明しています。

レッドウッド国立公園のコーストレッドウッド「ハイペリオン」

レッドウッド国立公園はアメリカ合衆国・カリフォルニア州北部に位置する広大な公園で、世界でも有数の巨大な木々であるコーストレッドウッド(Sequoia sempervirens)の森が広がっています。

コーストレッドウッドとはジャイアントセコイアやメタセコイアとともにセコイア亜科に分類される樹木です。この種の幹はジャイアントセコイアに比べてやや細めですが、より高く伸び、現生の生物の中では地球上で最も背が高いといわれています。

レッドウッド国立公園の気候は穏やかで、雨が多く、常に海岸沿いに霧がかかっており、この霧は樹木が年間に必要とする水の3分の1ほども供給しています。これらの条件がそろっているため、レッドウッド国立公園では巨大な木々が生育できるのです。

ハイペリオンもこの公園の奥深くに立つコーストレッドウッドのひとつで、2006年8月25日に自然学者のクリス・アトキンスとマイケル・テイラーによって発見され、同じ年、この木は光波測距儀と繊維ガラステープを使用して、115.55メートルと測定されました。それ以来、ハイペリオンは成長し、2019年には116.07メートルに達しており、現在知られている世界一高い木となっています。

ハイペリオンはギリシャ神話の巨人、ヒュペリーオーンにちなんで名付けられました。その名は「高みを行く者」を意味します。

ハイペリオンは樹齢600年から800年と推定されています。

ハイペリオンを見ることができない理由

それではなぜこの木を見ることができないのでしょうか?

それは、ハイペリオンを含む周辺の木々の正確な位置が多くの訪問者によって生態系にダメージを与えられることを懸念して秘密にされているからです。

レッドウッド国立公園は北部カリフォルニア沿岸の森林生態系の中で、最も重要な保護地域のひとつを形成しています。コーストレッドウッドは少なくとも2000万年前からこの地に存在し、1億6000万年前に存在した樹種と近縁です。

この木が生育する土壌は無脊椎動物、軟体動物、ミミズ、サンショウウオなどの生息地となっています。

また、木が最終的に枯れると、朽ちた木の周りから新しい木々が現れます。これらすべての木の根は土壌で広がり、絡み合っており、つまり、この森全体がつながっているのです。

この貴重なレッドウッド国立公園を保護活動を通じて守ることは、環境保護だけでなく、未来の世代に素晴らしい自然遺産を受け継ぐためにも重要であるといえます。

荒されるハイペリオン周辺地

それでも実際には、ハイペリオンをひとめ見ようと決意する人が大勢いました。

ただ、レッドウッド国立公園は広大で、総面積は約131,983ヘクタールにもなり、これは東京23区の約2倍の広さに匹敵します。

さらに、ハイペリオンにたどり着くまでにはウォーキングコースを外れ、何キロもの距離を木の枝やササなどをかき分けて進む、藪漕ぎをしなければならないため、国立公園局はこの木を見つけることはほぼ不可能だと考えていました。

しかし、どういうわけか、2010年に2年間の探索の後、最初のひとりがハイペリオンを見つけたのです。こうして、2014年までに、毎年一人ずつこの木を発見しています。ただし、彼らの全員が敬意を持って森を歩くことの重要性を強調し、この場所を秘密にしていました。

それが、2015年10月にすべてが変わりました。匿名のWebサイトがハイペリオンの写真、GPSの座標、およびそこに到達するための詳細な手順をリークしたのです。これにより、簡単にハイペリオンはインターネットで検索できるようになり、この場所を目指すハイカーが増加したと言われています。

こうして、大勢の人が藪漕ぎしたため、数か月のうちに、木の周りのシダが生えなくなりました。

また、写真を撮るために周囲の木々の上に立つことで根元が踏み荒らされ、樹木の根にダメージを与えました。

さらに、周辺には持ち込まれたゴミが散乱し始めたほか、訪問者はトイレを使うための脇道をさらに増やし、使用済みのトイレットペーパーや排泄物までもが放置されたのです。

ハイペリオン周辺の閉鎖

その結果、2022年7月、国立公園の管理者は訪問者による生息地の荒廃を理由に、木の周囲全体を閉鎖しました。そして、国立公園局は規則を破って訪問しようとする人には最高5,000ドル(約74万円)の罰金と場合によっては最高6ヶ月の懲役刑を科すと発表しています。

1850年に国立公園の近くにあるトリニティ・リバー沿いで金が発見されました。これにより、多くの鉱夫がこの地域に集まり、レッドウッドを伐採したことで、1910年までに多くの原生林が失われました。そのため、現在残されている原生林は200年前の約4%にすぎません。

それが、1980年に世界遺産に指定され、多くの団体や個人の尽力により、レッドウッドの貴重な自然が保護されてきたのです。

しかし近年、インターネットによってこの森は新たな脅威に直面しています。SNSのおかげで美しく印象的な場所を、簡単に多くの人にシェアできるようになりました。ただし、そのような場所はデリケートである場合が多く、そのため、簡単に破壊されてしまう可能性があります。

また、ハイペリオン周辺の閉鎖の目的は、訪問者の安全を守るためでもあります。この木を見るために道に迷ったり、怪我をしたりした人も現れ始めたのです。もし誰かがそこで怪我をしたら、管理者が駆けつけて救出するまでにしばらく時間がかかります。そして、このような場所では、明確な経路が示されておらず、GPSや携帯電話の電波も不安定なため、緊急サービスが遭難者にたどり着くのは非常に困難です。

今後のレッドウッドについて

レッドウッド国立公園では、ハイペリオンだけが際立って他の木よりも高くそびえているわけではありません。

この公園には2番目、4番目、5番目に高い木々、ヘリオス、イカロス、ダイダロスも生息しており、ヘリオスは2022年に約114.913メートルであると測定されています。このように、ハイペリオンは2番目に高い木よりもわずか1メートル高いくらいです。

しかも、これらの木々はそれぞれ成長速度が異なっているため、現在、ハイペリオンが一番高い木ではない可能性が十分にあります。

また、今あげた木々よりも高い木が新たに発見されることも考えられます。

ただし、その場合はほぼ確実に公表されないでしょう。研究者たちはその木を守るためにあらゆる手段を講じるつもりだと話しています。そして、インターネットが普及した現在では、その木が存在しないふりをすることが唯一の得策ということになるでしょう。

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