生命維持装置でしか生きられないカエル【キハンシヒキガエル】

人間なしでは生きていけない生物
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みなさんは滅菌環境の水槽でしか生きることができない帰るの存在をご存知でしょうか?このカエルはキハンシヒキガエルといい、タンザニアの特別な環境に生息する固有種でした。この種がどうして生命維持装置のような施設でしか生きられなくなったのでしょうか?

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キハンシヒキガエルとは

キハンシヒキガエルは茶色がかった黄色をしたタンザニア固有の小さなヒキガエルです。メスの方が大きく最大2.9cmになり、オスは最大1.9cmくらいです。このカエルは野性下で絶滅する前はタンザニアの東アーク山脈のウズングワ断崖にあるキハンシ川の滝のふもと、わずか2ヘクタールにのみ生息していました。

このヒキガエルは滝の轟音の中で互いの声が聞こえるように内耳で超音波を感知できる独自の聴覚コミュニケーションを発達させています。また、メスが体内で子供を卵からかえす卵胎生で腹部の皮膚が半透明のため、妊娠したメスの腹に子どもが透けて見えることがしばしばあります。

キハンシヒキガエルは現在、国際自然保護連合によって野生下において絶滅したとされ、飼育下でのみ存続しています。キハンシ川に数か所ある湿地が彼らの生息域で、この場所は全て川の滝によって発生する霧の影響を受けていました。そのため、滝の霧がかかるエリアはほぼ一定の温度に保たれており、湿度は100%で、固有のシダや草が生い茂っていました。

研究者は周辺の環境でキハンシヒキガエルを探しましたが、他にこの個体群を見つけることはできませんでした。キハンシヒキガエルは野性下で絶滅する前は約1万7千匹が生息していたと考えられています。しかし、この数は急激に減少し、2004年1月には3匹しか見られなくなり、2匹のオスの鳴く声が聞こえるのみとなっていました。こうして2009年5月に野生で絶滅した種として指定されることとなったのです。それでは、この場所で何が起きたのでしょうか?

キハンシダムの建設

キハンシヒキガエルの絶滅の原因はダムが建設されたことによる生息地の喪失によるものです。キハンシ川渓谷は1984年頃に水力発電プロジェクトの候補地となり、1999年にこのプロジェクトは完成しています。

このプロジェクトは川の流れの90%以上を迂回させ、水しぶきに依存した生態系を劇的に変化させてしまいました。特に乾季に霧の量が大幅に減少し、この峡谷に固有だった多くの動植物を脅かし、植生が大きく変わったのです。

皆さんの中には環境を破壊して人間はひどいことするなと思う方もいるでしょう。しかし現在、タンザニアでは経済格差が広がっており、28.2%の人口がタンザニア政府の定めた貧困線よりも低い水準で生活しているのが現状です。また、若年層の高い失業率も問題となっています。広大な国土をもつタンザニアでは、都市部から少し離れるとインフラが整備されておらず、道路はでこぼこ、水道がある場所までは歩いて数時間ということも珍しくありません。

このような環境の中、ダムは電力不足に悩むタンザニアの経済発展に貢献するという目的で作られたのです。

スプリンクラーの設置

ただ、現地の人たちはキハンシヒキガエルが滅んでいくまで何もしなかったわけではありません。2000年7月から2001年3月の間、キハンシヒキガエルの生息環境を守るため、霧を模倣した人工重力供給スプリンクラーシステムがキハンシダムの影響を受けてしまった湿地の3つのエリアに配置されました。これらのスプレーシステムはキハンシ川の流れを変える前に存在していた細かい水しぶきを模倣するように設計されています。

個体数の減少

しかし、設置は当初、スプレーゾーンの生息域を維持することに成功していたものの、18ヶ月後、もともとあった敷地と川沿いの植物が後退していき、雑草種がこの地域を襲い、全体的な植物種の構成が変化してしまいました。そして、2003年にはキハンシガエルの徹底的な個体数の減少が起きました。

これは乾季にスプリンクラーシステムが故障したことと、上流のトウモロコシ栽培事業で使用される農薬を含む堆積物を洗い流すためにキハンシダムを解放したため、そしてカエルツボカビ症の出現が原因です。

カエルツボカビ症

カエルツボカビ症とは菌類の1種であるカエルツボカビによって引き起こされる両生類の両生類の感染症です。これが両生類の皮膚に感染すると皮膚呼吸が困難になり、食欲の減衰が見られ、ひどくなると体が麻痺し、死ぬこともあります。

この病気は人間活動によって世界中に広がり、壊滅的な被害を与えており、世界の両生類の30%もの種数の減少に関連していると言われています。

飼育下での保護

Ruby 1×2CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

ただ、野生下では絶滅してしまったキハンシヒキガエルですが、それ以前に絶滅を懸念した研究者らが野生の個体を採取していました。北米の動物園はキハンシヒキガエルを野生に再導入するために、生息域外での繁殖プログラムを継続しています。このプログラムは2001年にブロンクス動物園によって開始され、絶滅に対するリスクを避けるために、この採取された約500匹がアメリカの6つの動物園に分けられました。

当初、その独特なライフスタイルと繁殖行動のため、飼育においては問題が多く、個体数を維持することができたのは、ブロンクス動物園とトレド動物園だけで、2005年12月までには70匹未満まで減少していました。

しかし、適切な飼育方法が確立されてからは生存率が上がり、繁殖も成功しました。こうして2005年11月、トレド動物園はキハンシヒキガエルの一般展示を開始しました。これは当時としては世界初のことです。

現在、トレド動物園には数千匹のキハンシヒキガエルがいます。また、ブロンクス動物園にも数千匹おり、2010年2月に展示を開始しました。

その後、トレド動物園は350匹を数か所の動物園に譲り、現在も飼育が継続されています。

再導入の試み

2010年8月、野性へと再導入する取り組みの一環として、100匹のキハンシヒキガエルがブロンクス動物園とトレド動物園から母国タンザニアにあるダルエスサラーム大学の繁殖センターに輸送されました。

しかし、繁殖施設での厳格な研究にもかかわらず、ヒキガエルはカエルツボカビ症に襲われ大量死してしました。そのため、研究者たちは野生への再導入には時間がかかる可能性があると述べています。

キハンシヒキガエルはM・R・オコナーの著種『絶滅できない動物たち 自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ』でも取り上げられています。

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